アイリスオーヤマの概要

 アイリスオーヤマは1958年、プラスチック製品を扱う大阪の町工場として創業した。上場こそしていないものの、2019年度のグループ売上は5000億円を超える大企業である。

 創業から漁業用のウキなどで業績を伸ばしたが、オイルショックで倒産寸前に追い込まれ、1978年に東大阪工場のほぼ全員、宮城工場の約半数の社員をリストラせざるを得なくなった。この経験が同社の企業理念第1条「いかなる時代環境に於いても利益の出せる仕組みを確立すること」につながったと健太郎会長は言う。

 その後、園芸用品や収納用品でヒットを続け、2010年のLED電球にはじまる家電商品への参入で成長が加速する。2003年には1000億円強だった売上げは、リーマンショックなどで多くのメーカーが苦しむ中、2010年に2000億円、2019年には5000億円に達した。2023年には1兆円を目指している。

 アイリス成長の源泉を一言で言えば「ユーザーイン」、すなわちユーザーの不便・不満を解消できる商品を値ごろ感のある価格で次々と開発、提供することである。そのために35年以上前から毎週月曜日に商品開発会議(通称プレゼン会議)が開かれ、担当者が新商品のプレゼンをし、社長がその場で商品化の判断をする。そこでの社長の役割は、「リスクの請負人」として責任を取ることと、「生活者の代弁者」であることだ。

 アイリスの基本は、価格を決めてからコストを考える「引き算のプロセス」にある。また、午前中に却下された案が午後に承認されるなど、一度却下されると次の発表までに2~3ヵ月はかかるといわれる大企業では考えられないスピードが、アイドリングコストの最小化につながっている。かさばる収納用品などを扱った経験から、ロジスティックの重要性にも敏感であり、「配送センターに工場をつくる」発想で日本全国に9工場を持つ。

 採用では「人柄」が最重視される

 アイリスの採用で重視されるのは「人柄、意欲、能力」の順である。「順番を間違えてはいけない」と健太郎会長は言う。能力は意欲さえあればついてくるという哲学は、会長の体験的持論である。

 こうした方針には、町工場から立ち上げ「よい人材が来てくれない」ことを悩み腹立たしく思った会長の経験が大きく影響している。健太郎会長は、次のように述べている[注3]

「会社が20のときは10の人、50のときには30の人と、常に人材の質が遅れるのです。(中略)中小企業にとって、社長と社員の間にギャップがあることはいいことであり、それが組織の正しい姿なのです。社長の高いビジョンに向けて社員を手取り足取り育て、目線引き上げようとする。その行為自体が重要です。
 ギャップがあるからこそ育成が可能であり、結果としてベクトルがピタッとそろい、組織が機能する。(中略)彼らを丁寧に育て上げることが、成長への近道なのです」

 チャンス平等、結果不平等

 アイリスの人事評価の仕組みは、主に2つの構成要素からなる。1つは、その年の本人の業績や成果を自己申告する「論文と発表」、もう1つは、上司・同僚・部下から評価される「360度評価」である。降格もある。晃弘社長は、次のように言う[注4]

「当社は強い人間の集団を目指しており、成長できるツールは渡すし、競争も奨励する。特に『360度評価』のフィードバックでレーダーチャートを見ると自分の強いところ、足りないところは一目瞭然だと思う」

 そして、降格した社員には人事部が評価の開示と説明、何が不足していたのか、次に何をやらなければならないのかを、1年間かけてコーチングする。「チャンス平等、結果不平等」という緊張感が、社員の力を最大限に引き出している。また「慣れる」ことも大きいのではないかと人事責任者は指摘する。

「(降格が)頻繁に起こるとみんな珍しくなくなってあの人ダメだったんだねとかそういう話もうない。慣れてきちゃう。慣れって恐ろしい。それもまたいい。変に卑屈にならない」

 アイリスの家電を躍進させた立役者は、早期退職を含めた大手家電メーカー出身者である。彼らはアイリスに入社して一様に驚くようだ[注5]

「驚いたのは、あまりにも少数精鋭だったことです。印象ですが、前社に比べると1/100くらいの感じでした。最近は、だいぶ人が増えたので変わってはいますが、1/10まではいっていないです。製品の原価を考えた場合、大手の製品はほとんどが人件費ですが、アイリスの場合、人件費の比率は段違いに低いです。なぜかといえば、遊んでいる人が誰もいないということです。
 アイリスはちょっとした目の付け所が重要なので、『やってみなはれ』という感じでどんどんやります。大手は失敗のリスクが取れない。研究に2年も3年もかけてきたら、そう簡単には失敗はできないです」

 優秀だけれども、大手メーカーで何らかの形で役割がなくなった技術者たちが思いっきり仕事をしている。単純に言えば、このことに尽きる。

 徹底した情報共有を実践

 アイリスが少数精鋭によるスピード経営を実現できるもう一つの重要な要素は、情報の共有化にある。健太郎会長は「社長が的確な経営判断を下せるのは、社長が優秀なのではなく、社長が社内情報を独占する立場にあるから」だと言い切る。

 たとえば、毎週月曜日に丸1日かけて行われるプレゼン会議は、「社長だけが知っている情報」はなく、情報をすべて共有したうえで、社長がどのように意思決定しているかというプロセスを見せ、社員に考え方を伝える役割もある。仙台の角田工場で行われるこの会議では、朝礼と同様、全国(海外を含む工場・拠点)でリアルタイムにTV会議システムにより中継される。

 健太郎会長が重視する朝礼は毎年「朝礼集」としてまとめられ、主任以上の約600人の社員は前年の「朝礼集」を参考にA4用紙1~2枚の論文を書くことを求め、それに対する評価も行っている。健太郎会長はこれを「善意の強制」と呼ぶ。強制なしに「ちゃんと聞いてくれ」と言っても効果はほとんどないことを知っているからだ。

 また、インフォーマルなコミュニケーションも重視し、コロナ禍以前までは積極的に懇親会を開き、一人につき3000〜5000円を会社が支給していた。若者が懇親会が嫌いだと言うのは嘘で、会社の飲み会に来ないのはそうした場で社長や上司が偉そうにするからだと、健太郎会長は言う。

 さらに、アイリスオーヤマでは月次管理を徹底しており、毎月の月次会議で全部門の収益を共有する。開発社員は、製品発売後3年間は責任を持って損益チェックを行う。営業も得意先ごと、個人ごとの損益管理を出張費を含めて「見える化」している。そして、売れない商品は迅速に撤退する。企業理念の第1条にあるように、こうした損益管理が、どんなときでも利益を出すために必須だからである。

 情報共有が自主性を促す

 徹底した損益の見える化は、競争意識を含め社員の自主性を促し、みずから知恵を絞る環境につながっている。健太郎会長は、「『一生懸命働け』では、社員は自分がやっていることが利益につながっていることもわからないし、何でどれだけ儲けているのかも見えない。コストが見えればモチベーションや働く意識は間違いなく変わります」[注6]と述べている。

 情報共有化の重要性はどこの企業でも言われているが、多くは「社外秘」「関係者限り」といった印鑑が押され、「どうでもいい情報」だけがオープンになっている。アイリスの方針は、これとは真逆である。アイリスの情報共有は「オープンにすることがデフォルト」であるといっていい[注7]

 なお、アイリスの海外展開も学ぶところは多いと思われるが、今回は割愛する。1つだけ言えば、多くの企業が「現地化」を叫ぶのに対して、アイリスでは海外の、しかも本社部門であっても日本語を使い「アイリス化」に力を入れている。