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連載最終回は、成長を続けるアイリスオーヤマとサイボウズの経営をネットフリックスと対比しながら分析し、日本企業への示唆と課題が論じられる。優れた企業には「人」を中心とする文化があり、それを徹底する経営者のコミットメントがある。

「社員と思いを共有できないと嘆く社長は、おそらく社員に話す量が圧倒的に不足しているのだと思います」

大山健太郎(アイリスオーヤマ会長)

「チームワークを高めるには、公明正大であることが重要です。要するに嘘をつくなということです。これだけは社員に約束してもらいます」

青野慶久(サイボウズ社長) 

 最終回では、これまでの議論を踏まえて、ネットフリックスという卓越した企業の経営を鏡として、日本企業が学ぶべき点を考察したい。

 現時点でネットフリックスと直接競合している日本企業はどこだろうか。ストリーミングという意味ではWOWWOWやスターチャネルが挙げられるが、それほど多くない。ましてや国の法律や文化、人の考え方、業界も違うのであれば、ネットフリックスはあまり参考にならないと考える方もいるだろう。

 しかし、一歩立ち止まって考えたい。たとえば、携帯電話と自動車は競争しているだろうか。業界という考え方でいれば否である。だが、それぞれの商品需要が独立であることを前提としなければ、どうだろうか。

 現実には、「携帯電話に使う予算」「自動車に使う予算」と決まっているわけではなく、特に10代後半や20代で見ると、20年前と比べて前者が圧倒的に増えている。つまり「財布シェア」の取り合いという視点では、この2つは直接競合しているのだ。

 そう考えてみると、現時点ではネットフリックスと直接競合していなくても、将来的に「財布シェア」はもちろん、消費者が可処分時間を何に使うかという意味で「可処分時間シェア」をめぐる競争は、テレビやゲーム、雑誌、スポーツ、小売りモール、はては外食、ドライブ(自動車)、旅行などに対する潜在的な脅威である。

 これから確実に訪れる技術進化は、業界を隔てる壁をさらに低くするだろう。デジタルカメラとスマートフォン、PCとタブレットやスマートフォンなどの例を見れば、それは明らかである。そうなったときに、ネットフリックスのような新しい挑戦者と戦い、生き残れる既存企業はどれだけあるだろうか。

 そうした問題意識を持ちながら、以降ではアイリスオーヤマとサイボウズとの比較を通じて、日本企業がどのような示唆を得られるかを考えたい。

 両社ともにネットフリックスとは業界も違えば歴史も異なる一方、それぞれのやり方で「自主性・当事者意識」「人材選別」「徹底した情報共有」を突き詰め、「そんなことして大丈夫か?」と思われるほど人事・組織面でリスクを取るという点では同様だと考えるためだ(前回参照)。「ベストプラクティス」はいいが、他社や他業界と同じことをして差別化ができるわけはないことを改めて思い出させてくれる。

 なお、筆者は2018年にゼミ生とアイリスオーヤマのケースを作成する機会を得た[注1]。大山健太郎会長はじめ多くの方にインタビューし、国内工場だけでなく中国の大連工場も見学している。その後大山晃弘現社長とも複数回お目にかかることができた。ここでは公表情報に加え、それら一次情報も含めて考察をまとめた。

 グループウェアを提供するIT企業のサイボウズに関しては、公表資料(書籍[注2]や雑誌記事)に基づき、主に人事と情報共有面に焦点を当てる。