自主性・当事者意識:
ルールを排して自由と責任の文化をつくる

 自主性を一言でいえば、組織の目的・戦略を遂行するために、上司の指示やルールに頼ることなく、みずから判断・行動できることである。

 一見、ルールがあったほうが役割や判断基準が明確になりそうだが、ネットフリックスは“avoid rules”を宣言し、ルールの最少化を目指している。これは、自由と責任の文化といってもよい。

 ネットフリックスは、トップダウン型の意思決定を明確に否定している。これはサムソンでもそうだが[注5]、リアルタイムの情報を持ち、戦略を理解した高い能力を有する現場社員のほうが、はるかに早く、かつ的確な意思決定ができるからである。「忙しいCEOは(部下に任せるべき仕事に時間をとられ)本当の仕事をしていない」とヘイスティングスは言う。

 また、意思決定は原則として多数決で行わない。情報を共有するチームメンバー間で議論を戦わせたあと、責任者(captain)が決める。合議制は「スピードが落ちるばかりか、責任をあいまいにする」からだ。

 拙著『実行と責任』[注6]でも触れたように、日本企業の多くが「権限移譲」「当事者意識を持て」と叫ぶ割には、「目的」「戦略」「課題」がしっかりと共有されておらず、権限移譲や当事者意識を持つこと自体が目的になっていることが多い。「現場の社員にそんな話をしても仕方がない」と重要な情報を共有しないでおいて、「もっと考えろ」「自主的にやりたいアイデアを5つ出せ」という指示が降ってくるという、冗談のような話も耳にする。

 ネットフリックスがやっていることは日本で流行りの権限移譲と似ていると思うかもしれないが、「上司が意思決定をすることがいかに少ないかを誇りとする」彼らが求める水準は、次元が違う。

 ネットフリックスの自由と責任の文化を端的に表すのが、以下の「シンプルルール」である。

・支出のルールは、“Use good judgement(自分の良識に従え)”のみ。
・旅費などの経費精算のルールは単語5つから成る、“Act in Netflix’s best interest(ネットフリックスにとってベストになるように)”一つだけ。
・休暇のポリシーは、“Take vacation (休暇をとれ)”
・固定給とストックの比率は毎年自由に決められる。
・ストックオプションの行使に制限期間はなし。

 これらのシンプルなルールに共通するのは、社員を大人として扱うということだ。自己の裁量に任せるルールを導入すると、「ルールがあいまい」だと言い出す「こども社員」はどこにもいる。また、自主性を求めて大きな権限を与えると、失敗につながったり、「悪いことをする」社員が出てきたりすることもある。

 後述するように、ネットフリックスは「大人として扱うにふさわしい社員」、つまり大きな裁量を使ってベストのパフォーマンスを上げることのできる人材だけを集めている。「失敗防止は魅力的に聞こえる」ことを認めながら、そうしたルールはネットフリックスの命であるクリエイティビティを阻害するものとして最少化する。そして、成功しても失敗しても各人に対して率直なフィードバックが与えられる。

 この自主性あるいは当事者意識に関して、ネットフリックスは「オフィスにごみが落ちていたら拾う」ことを象徴的な例としている。また、カルチャーデックの最後を『星の王子様』で有名なサン・テグジュペリの次の言葉で締めくくっている。

「船をつくるのなら、材木の切り方や鉋(かんな)のかけ方を教える前に、海への情熱を伝えよ」