この問題を乗り越えるうえで、プラットフォームをいかに展開するかはきわめて重要である。実際、プラットフォームの研究開発やマーケティング投資、デザインの特徴、あるいは全般的な戦略よりも重要だと言ってもいい。

 そして、最善の市場投入戦略は、直観に反していることが少なくない。使いたい人すべてを対象にしてアプリを展開する代わりに、徹底して的を絞るのだ。すなわち、1つの小さなコミュニティをターゲットにして、そこで広く受け入れられ、利用が促進され、クリティカルマスに到達したあとで、徐々に規模を拡大していくのである。

 これは、いまやグローバルなソーシャル・ネットワークになったフェイスブックが、立ち上げの際に使った戦略である。フェイスブックはハーバード大学内のコミュニティとして始まり、大学から大学へと広がり、企業に広がったあと、クリティカルマスに到達してずいぶん経ってからグローバルに展開された。

 この戦略は、海外在住者に的を絞ったチャットアプリのワッツアップや、サンフランシスコの繁華街に的を絞り、そこから一都市ずつ拡大していった配車アプリのウーバーが採用した戦略でもある。

 対照的に、グーグルはジーメール(Gmail)のユーザー全員を対象にグーグルプラスを立ち上げ、何百万人ものユーザーを抱えているにもかかわらず、クリティカルマスに達しなかった。

 アップルもアイチューンズ(iTunes)のユーザー全員を対象にアイチューンズ・ピンを立ち上げて同じ結果だった。つまり、利用者は取るに足らない数にとどまったのである。的を絞った市場投入戦略がなければ、巨大企業でも失敗する。

 新型コロナウイルス感染症の接触者追跡アプリにも同じことが言える。広範かつ無差別にアプリを展開する代わりに、アプリがただちに役立つようなコミュニティに絞り込み、感染封じ込めに関連づけて展開すべきである。

 すなわち、家族、宗教のコミュニティ、職場、学校、バーやレストラン、ビーチ、ホテル、列車、飛行機などである。そうすればアプリは即座に価値を生み出し、小さなコミュニティそれぞれの中での普及率が100%に達する可能性がある。小規模なコミュニティでいったんクリティカルマスに達すれば、そのアプリは徐々に規模を拡大できるし、地域レベルや国レベルでつながるようになる。

 EUが勧告した相互運用性は、国を越えたつながりさえ許容している。これは単にフェイスブックやワッツアップ、ウーバーの規模拡大から学んだことを実行しているだけである。

 実際、多くのコミュニティのステークホルダーは、感染の追跡に強い関心を寄せている。蔓延を防げれば、学校や職場といった人が集まる場所を安心して再開できるからだ。

 コミュニティによっては、アプリの利用を効果的に義務化したところや、強く推奨するところもある。たとえば、イタリアで第5位の銀行UBIバンカは、従業員が7月1日から出勤を再開するにあたり、自社開発の接触者追跡アプリ「UBIセーフ」を使うよう求めた。

 このアプリは、従業員の40%が持っている社用スマートフォンに自動的にダウンロードされた。残りの60%の従業員には、自分のスマホにダウンロードさせることを計画した。我々が6月半ばにUBIバンカのCIOマルコ・チェケッラと話したところ、アプリの利用率はかなり高いだろうと自信を示していた。

 他のコミュニティも同じような取り組みができるはずだ。大学の寮は入寮前の学生たちにアプリをダウンロードするように要請できる。家族は一族の集まりに出る前に、メンバー全員にアプリをダウンロードするように頼める。航空会社は搭乗前の乗客にアプリを入れるように要請できる。

 ある程度慎重かつ粘り強く実行して、各コミュニティがクリティカルマスを達成すれば、アプリの利用者数はただちに増加し、徐々にネットワーク間をつなぐことができるようになり、ほとんどの人々がアプリをダウンロードするところまで受け入れ規模を拡大できるだろう。