●AIを利用して職場のウェルビーイング向上を奨励する

 テクノロジーの普及につながる重要な、そして見落とされることの多いポイントとして、テクノロジーが向こう数十年間でどれだけヘルスケアや寿命延長に役立つかという点がある。

 AIが慢性疾患の診断や治療を向上させるだけでなく、治癒をもたらす可能性があることは十分に立証されており、人類の未来に明るい希望をもたらしている。そこまで大きな話ではなくても、AIはストレスをはじめとする仕事環境に関わる不安を削減するためにも利用できるだろう。

 現在、ストレスや職場の安全、雇用に関する不安は、組織の生産性に影響を及ぼす最大の原因として挙げられることが多い。広範にわたる労働人口が影響を受けることを考えると、最も効果的なヘルスケアプログラムを持つ企業が好業績を謳歌する可能性がある。

 AIに投資している企業は、従業員の健康をサポートするために、テクノロジーによって何ができるだろうか。多くの企業は雇用削減につながらないように慎重にAIを利用している。加えて、そのことを従業員に伝えている。

 代わりに企業は、たとえばコールセンターでの機械的なタスクにAIを使って従業員の過剰な負荷を減らしたり、AIを通じて新製品の開発や新市場への参入を果たし、事業を拡大することで雇用を増やしたりしている。あるいは、予知保全のためにセンサーとAI、およびデータ分析を用いることで、人を巻き込む事故や怪我を防ぐのに役立っている。

 AIを従業員のウェルビーイングを改善するツールとして使い、高い投資利益率(ROI)を出している企業もある。

 ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)には、従業員のヘルスケアを重視してきた長い実績がある。1970年代末の「リブ・フォー・ライフ」と呼ばれる最初のプログラムを皮切りに、同社のウェルネスプログラムは拡充し続けている。プログラムの目標は、10万人以上の従業員が自己のウェルビーイングを過去最高の状態にすることだ。

 この目標を達成する手段として、J&JではAIを活用したヘルスケアアプリを90%以上の従業員が使っている。これは、高血圧や高コレスレロールなど一人ひとりの健康に関わる指標を改善する施策の1つで、各自の状態に合わせたトレーニングやプログラムを提供するものである。

 ほかにも、従業員の幸福度やエンゲージメントを高めることができるアプリがある。

 たとえばバイブ(Vibe)は、スラック(Slack)上での従業員のやり取りで使われたキーワードや絵文字を分析するアルゴリズムで、チームが幸福感やストレス、落胆、イライラを感じているかどうか判断する。

 ADPのコンパス(Compass)コミュニケーションを分析するAIツールで、従業員の士気に関する洞察をマネジャーに教え、士気を高めるにはどうすべきか気づきを与えてくれる。ADPによると、このテクノロジーの導入によって自社の業務効率が約40%向上したという。

 フム(Humu)はデータ分析によって、従業員の幸福度を高めるのに最も大きな影響を与えると思われる行動変容を特定する。そしてメールやテキストメッセージを通して、より大きな目標へとつながる小さな一歩を踏み出すようそれぞれの従業員を促す。