我々のデータシミュレーションは、企業や経済、より広範にわたる社会のウェルビーイングが2つの決定的要因に大きく左右されることを示している。

 第1の要因は、AIが主にコスト削減や労働力の代替としてではなく、製品やサービスのイノベーションを創出するために使われる度合いである。第2の要因は、AIベースの経済へと移行する際に生じる、避けることのできない摩擦を管理して緩和するためにいかにAIを使うかである。

 我々は分析の結果、失業のリスクや所得格差の拡大に関する不安には、人々のウェルビーイングを低下させてしまうほどの大きな影響力があることを発見した。さらに、リスク回避傾向がある程度強くなると、テクノロジーの導入や普及に伴う生産性や所得の向上といったメリットを相殺してしまうが明らかになった。

 逆に、従業員の再訓練や人材移動を促進する施策を通して、AI導入の焦点をイノベーションに絞りながら、積極的に移行を管理するという2重のアプローチを取ることには、相当な利点がある。

 我々の分析では、AI時代において「社会のためになることを実行する」のは、積極的なテクノロジー戦略が優れたビジネスになりえることを示唆している。

 歴史を学んだことがある人々にとっては驚くに値しないかもしれないが、ヘンリー・フォードに有名なエピソードがある。1914年、自社の従業員がT型フォードの最初の顧客になると気づき、1日5ドルの賃金を従業員に支払い始めたというものだ。これは当時の一般的な賃金の2倍に当たる。

 T型フォードの価格は5年後には半額になったが、彼は支払いを続けた。その結果、フォード・モーターの生産性と利益は著しく向上し、多くの雇用を創出したのである。

 それから1世紀後、我々の研究は同じことがいまなお真実であることを示している。企業はAIへの投資で競争力を高めつつ、従業員のウェルビーイングを重視してテクノロジー移行に伴うリスクを管理すれば、投資がもたらすメリットを享受できる。

 企業がこれを達成するにはいくつかの方法があるが、その一例を紹介する。