驚異の集客力を誇る
FC今治の取り組み

熊見 成浩 Narihiro Kumami
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 パートナー
Deloitte Digital Japan Deputy Lead

Marketing & Customer Experience組織責任者。特にマーケティング領域を専門とし、マーケティング戦略・Digital変革・クリエイティブなどを手掛ける。早稲田大学院非常勤 講師。デロイトトーマツ初代ビジネスコンテスト コンサル部門優勝。

 ここで、あるサッカークラブの事例を紹介したい。愛媛県今治市に拠点を置き、「次世代のため、物の豊かさより心の豊かさを大切にする社会創りに貢献する。」を企業理念に掲げる「FC今治」だ。

 同クラブは、2014年に元サッカー日本代表監督の岡田武史氏がオーナーとなり、2016年に「Jリーグ百年構想クラブ」の認定を受け、2020年には地域リーグである四国サッカーリーグからJ3に昇格。地域に愛されるクラブチームとしてサポーターを着々と増やし、今ではホーム試合の平均観客動員数が3000人を数えるまでになっている。約15万人という今治市の人口規模を考えれば驚くべき集客力だ(東京都の人口比率に置き換えると約30万人の集客数となる)。

 実はこの成長の背景にも、CXからHXへのマーケティング戦略の転換がある。従来のCXの観点に立てば、試合により多くの観客を呼ぶことばかりに着目することになり、マーケティング施策も集客プロモーションに偏ったものになりがちだ。しかし、HX的な観点に立てばゴールが変わる。つまり、特定の試合の集客よりも、繰り返しスタジアムに足を運んでくれるファンを増やし、ファン同士のつながりを広げ、サポーターとしてチームを見守る長期的な関係構築を目指すことになる。価値観のコンパスでいえば「帰属意識(私たち)×好奇心(未知)」の醸成が重要になる。この認識を、選手やスタッフ、そしてビジネスパートナーにも共有し一丸となって施策を実行していくことで、この一試合に勝つか負けるか以上に、応援してくれるファンの心を動かすパフォーマンスや、感謝の思いを伝えるコミュニケーションを大切にするようになっていく。試合という一時的なエンターテインメントを提供するだけでなく、一人一人の人生の中にFC今治が存在できるポジションをしっかり確保し、広げていくこと。それがマーケティングの大きなテーマになっているのだ。

 こうした取り組みのためには、従来のデモグラフィックなマーケティングデータよりも、より深く人間活動にフォーカスした高精細なデータが必要になる。デロイト トーマツは2019年からFC今治と共に観戦体験向上のプロジェクトに取り組んでおり、観戦体験にまつわるさまざまな行動の可視化や分析を行っている。そして、これらの知見にデジタル・テクノロジーを組み合わせ、価値ある提供体験の再設計に継続的に取り組んでいる。