企業の生き残りの鍵を握る「ヒューマンな視点」

 では、こうしたコンシューマー側の変化の一方で、企業とそのビジネスはどのように変わったのでしょうか。以下で具体的な事例を見てみることにします。

事例1:オンラインでの不動産売買 「恒房通」

 中国の不動産会社・中国恒大集団は、COVID-19のパンデミックを機にマーケティングとセールスの機能をオンラインに移行。スマホアプリ「恒房通」上でセールススタッフがライブ配信でインタラクティブに物件紹介を行う他、高精細の動画やVR(仮想現実)を活用した物件の閲覧、またオンライン化された決済システムなどが人気を呼び、わずか3日間でアプリユーザーが300万人以上増加し、半月で9万9000件以上の成約を達成したといわれています。

事例2:証券のリモートセールス

 米国のある証券会社では、ファイナンシャルプランナーがビデオチャットでコンシューマーに対応するリモートセールスサービスの提供を開始。コンシューマーは自分の好きなセールススタッフを選べるため、優れた人材がいれば、従来の商圏にとらわれないサービス展開やエリア拡大が可能になりました。

 これらの事例からも分かるように、COVID-19以降のセールスにおいては、従来のe-コマースのようなデジタル機能に加えて、コンサルティングやアドバイスといった購買行動を後押しする「ヒューマンなサービス」が極めて重要な意味を持ちます。特に不動産や金融商品のようなコンシューマーが自分の知識だけでは判断しにくい商品・サービスの場合、専門家がコンシューマーの考えを理解し、コンシューマーの希望に沿った商品・サービスを提案し、コンシューマーを購買の意思決定まで導いていく必要があるのです。

 コンシューマーとの接点におけるこうした変化からも見て取れるように、これからの企業には、ヒューマンな視点が求められるようになっています。以下に4つのキーワードを挙げます。

  1. 危機への対処:COVID-19がもたらした「人類全体の危機」の中で、コンシューマーに寄り添ったサービスを提供できるかどうかが、企業に対する期待価値を左右する
  2. リモートセールス:地理的な制約にとらわれる必要がないため、顧客にとって最適な商品・サービスやセールススタッフが選ばれる
  3. カスタマーサービス:複数のチャネルをまたがる顧客のために、全てのチャネルで同じレベルの顧客目線で対応できる「真のオムニチャネル化」が求められる
  4. リモートワーク:従業員はリモートワークが可能かどうかで、仕事や会社を選ぶ

 これらの変化の進展は、ビジネスの枠組みにおいて大きなパラダイムシフトを引き起こします。例えば、コンシューマーがどこに住んでいてもネットワーク経由でお気に入りのセールススタッフにアクセスできるようになったということは、企業がセールススタッフをアサインするのではなく、顧客がセールススタッフを選ぶ時代になるということを意味します。全国各地に置かれた営業拠点のカバレッジやセールススタッフの数は、もはや差別化要因ではなくなる可能性があります。競争のルールが変われば、拠点ネットワークを持たないような新規参入企業であっても、伝統的な大手企業と互角に勝負するチャンスが生まれます。エリアの制約を受けない以上、セールススタッフごとの集客力にも大きな偏りが出てくることが予想されます。集客力のあるセールススタッフは、コンシューマーに最適な商品・サービスを届けるために特定の企業に所属せずに、独立して営業するといったケースも想定されるため、企業はセールススタッフとの信頼・共感を構築することが求められるでしょう。

 こうした新たな市場環境の中では、従来のように営業の「量」で収益を伸ばしてきた企業は、おのずと淘汰されることになります。対面ではコミュニケーションすることができないコンシューマーに対して、デジタルを通じて的確なアドバイスを提供する、あるいはオムニチャネルでのコンタクト・取引履歴を統合的に捉えた上でコンシューマーの好みを熟知した提案をしてくれる、といった営業の「質」こそが問われることになるからです。加えて、働き手からすれば感染リスクが少ないリモートワーク環境を提供してくれるなど、従業員の健康と安全を意識した働き方を提供する企業を選ぶようになります。コンシューマー、セールススタッフ、従業員のそれぞれに対して、ヒューマンな視点を持ち、人々の悩みや課題解決、実現したいことに寄り添った企業運営が、これからの企業にとって必須となることは間違いありません。