あらゆる企業が経営モデルの変革を迫られる両極化の時代に、経営者が取り組むべきことは何か──。モニターデロイト ジャパンプラクティス リーダーの藤井剛氏は、その解として「経営における時間軸の捉え直し」「ステークホルダーとの関係性の再定義」「求心力の源泉となるパーパスの設定」の3点を挙げた。まずは企業が中期経営計画的な時間軸を脱して長期的な視点を持つことが新たな経営モデル構築の糸口になる、という前編の議論を踏まえ、後編では、ステークホルダーとの関係性の再定義を新たな価値創出につなげるアプローチと時間軸のつながりや多様化・重層化するステークホルダーとのつながりの源泉となるパーパスを考える。

藤井 剛
Takeshi Fujii
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 パートナー
モニターデロイト ジャパンプラクティス リーダー

電機、通信、ハイテク、自動車、保険、不動産、消費財、ヘルスケア等幅広い業種において、経営/事業戦略、イノベーション戦略、デジタル戦略、組織改革等の戦略コンサルティングに従事。社会課題解決と競争戦略を融合した経営モデル(CSV)への企業 変革に長年取り組み、モニター デロイト グローバルでのThought Leadershipを担う。
『Creating Shared Value : CSV時代のイノベーション戦略』(2014年)、『SDGsが問い かける経営の未来』(2018年)、『Detonate:ベストプラクティスを吹き飛ばせ』(2019年: 翻訳)等、著書・寄稿多数。

エコシステムという新たなつながり

── 前編では、経営の時間軸を変え、「ズームアウト(長期)・ズームイン(短期)」という複眼的な視点を持つことの重要性を中心に伺いました。その鍵が「社会課題解決」であり、それを実現するためには多様なプレーヤーが連携するエコシステムの構築が不可欠とのことでした。

 はい。新しい価値を生み出すためには、新しいつながりが欠かせません。デジタル化の進展は、あらゆるヒト・モノ・情報・場所がオンラインでつながる「コネクテッド・ワールド」を現出させました。これが国境、業種、業界などの壁を超えたエコシステムの形成を容易にし、イノベーションや新たなビジネスを生み出す豊かな土壌になっています。この新しい世界では、ビジネスにおける価値提供の在り方が根本的に変わります。個々の商品やサービスが持つ機能そのものより、それらを組み合わせてユーザーがどんな経験価値が得られるかがより重視されるのです。

 デジタル技術を駆使して多様な交通手段を統合し、ユーザーが望む移動体験をシームレスに提供するMaaS(Mobility as a Service:マース)は、まさにコネクテッド・ワールドを前提として新たな経験価値を生み出すモデルといえます。MaaSを支えるエコシステムにおいては、自動車などのモビリティーメーカー、電車やバスなどの公共交通サービス、自治体、決済を担う金融機関といった多様なプレーヤーが産業横断的に参画し、各プレーヤーがデータを通じて有機的につながることでユーザーの経験価値を増幅しています。ここでは、かつて競合関係だった事業者も、同じ目的を共有し、価値を共創する仲間として再定義されています。

── こうした新しい関係性の構築は社会課題解決にもつながりますね。

 おっしゃる通りです。1つ例を挙げましょう。2019年のダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)で、米国のリサイクル会社であるテラサイクルが大手消費財メーカー各社と共に発表して話題になった「ループ(Loop)」という循環型のショッピングサービスです。
 
 使い捨て容器で販売されるのが当たり前だった飲料や洗剤、化粧品などの商品を、耐久性とデザイン性に優れたリユース可能な容器でユーザーの手元に届け、使用後は容器を回収し、洗浄して再利用する仕組みです。このプロジェクトには、ユニリーバ、P&G、ネスレ、ダノン、ペプシコといった世界的な消費財メーカーがパートナー企業としてズラリと名を連ねています。いわゆる消費財メーカーの競合企業同士が手を組んでいるわけです。

 そして、このサービスは日本でも東京で、20年の秋から試験サービスが始まる予定です。日本版ループに参画する企業は、味の素、I‐ne(アイエヌイー)、イオン、エステー、大塚製薬、キッコーマン、キヤノン、キリンビール、サントリー、資生堂、P&Gジャパン、ユニ・チャーム、ロッテの13社。さらに行政として世界初となる東京都も参画を表明しています。既存の枠を超えて多様なプレーヤーが連携し、新たなエコシステムを形作って社会課題に取り組んでいる好例といえるでしょう。

── 企業同士が手を組むことそのものは珍しいことではありません。これまでとは何が違うのでしょうか。

 もちろんこれまでも企業同士のコラボレーションは盛んに行われてきましたし、自動車産業の「ケイレツ」に代表されるような、メーカーを頂点にして統合されたバリューチェーンもありました。しかし、これは閉じた業界内で自社の競争優位を築くことを目的とした排他的なつながりであり、外部とのやりとりは極めて少ない閉鎖系だったといえます。

 一方、多様なプレーヤーの共創で、これまでになかった経験価値を提供し、複雑な社会課題解決を目指すエコシステムは、内外に境界を設けない開放系です。自社ばかりを考える閉鎖系の「”エゴ”システム」ではなく、社会課題を起点に多種多様なプレーヤーが集まる開放系の「”エコ”システム」の構築が必要となっているのです。これまで無縁だった異業種の企業や、公的機関やNGOといかに新たなつながりを築いていくか。それがこれからの重要な経営テーマになるでしょう。