前編では、コロナ禍がもたらした働き方の変化や、リモートワーク成功のために日本企業が乗り越えるべき構造的課題、そしてその課題解決の一助を担うOKR(Objective & Key Results)型人材マネジメントを中心に紹介した。後編では、OKR型人材マネジメントが企業にもたらすものを明らかにしつつ、移行に向けて企業が取るべきアクションや進め方について深掘りする。

リモートワーク環境が整うと多様な人材の活用も進む

堀江章子
アクセンチュア 執行役員 金融サービス本部 証券グループ アジア太平洋・アフリカ・中東地区統括 兼 インクルージョン&ダイバーシティ日本統括
大学卒業後、アクセンチュアに入社。1999年にマネジャー、2007年にマネジング・ディレクターに就任。金融各社の業務管理システムの構築、事業拡大・営業強化の支援などを担当。16年よりアジア・パシフィック地域の証券グループを統括。14年からはインクルージョン&ダイバーシティ統括 執行役員を兼任。能力や年齢、国籍や宗教、性別、LGBTなどの背景に関係なく多様な人材がリーダーとして最大限の力を発揮できる組織づくりに尽力している。

堀江 今回のコロナ禍で急きょ、リモートワークを導入した複数の企業の従業員にヒアリングしてみたところ、「仕事は順調」「残業がなくなり、効率が良くなった」「無駄なミーティングがなくなった」という回答が多かったですね。そして、およそ8割から「ポストコロナでもリモートワークを続けたい」という声が聞かれました。

山形 注意したいのは、その8割の中には、「生産性が上がるから」というポジティブな理由で続けたいという人ももちろんいる一方で、「楽ができるから続けたい」という人もいるのではないかということ。

 やはりリモートワークを企業の成長につなげる上で大事なのは、職務や目標を明確に設定し、成果に基づいたパフォーマンスマネジメント(OKR)を導入すること。評価のやり方がこれまでのままだと、目的意識がしっかりある人は生産性高く業務を遂行できますが、そうでない人はリモート環境下でこれ幸いと手を抜いてしまいかねない。

堀江 リモートワーク環境が構築され、OKR型のマネジメントがきちんと整備されると、男女や拠点などに関係なく、優秀な人材の活用が進みます。例えば、ある専門知識を持つ東京本社のA氏に急きょ、大阪にサポートに来てもらいたいといった要望があったとして、これまでだとA氏はスケジュールを調整して出張しなければならなかったので、自分の仕事に多少なりとも遅れが生じる可能性もあった。A氏がもし子育て中なら、帰りが遅くなるため、保育施設に預けた子どものお迎えなどの調整の手間も増えます。しかし、リモートで参加できれば、そうした問題もクリアできる。つまり、リモートを利用すれば、さまざまな働き方の事情を抱えた人も含めて、優秀な人にいろいろなシーンで働いてもらえる可能性がより高まるわけです。

植野 リモートワークで成功している企業では女性のパフォーマンスが高いという話もしましたが、例えば女性の登用率が高い欧米では、従業員の合意の上で、明確な職務記述書(ジョブディスクリプション)が定められ、OKR型の評価制度も、日本より根付いている。そのことからも、リモートワーク環境や成果を明確化したフェアな評価は、ジェンダーダイバーシティの推進にも寄与するといえるのではないでしょうか。

山形 人材の流動化も日本の社会課題の一つですが、場所と時間に制約されないOKRの環境整備はその解決にもなり得ます。弊社BPOセンターでは、あるチームで働く従業員が、自分の空き時間を他のチームの仕事に使い、全体としての生産性を高めるといった社内副業のような制度があります。このようなモデルを会社の枠を超えて運用できれば、例えば、B社の従業員が会社の了解を得た上で30%の時間を使ってC社で副業した場合、B社は70%の給料で済む一方、C社も必要な人材を30%分の給料で採用できるようになります。こうした働き方が認められるようになると、働き方の多様化、ひいては人材の流動化が加速していくことでしょう。

堀江 専門性が高い仕事を中心に、そうした人材の流動化が進展すると考えられますね。働く側の観点から見ると、いろいろな企業で仕事を経験できるので、個人のキャリアの多様化やキャリア価値の向上にも寄与します。