相反するかに見える対極的な事象や価値観がクローズアップされ、共に重要な意味を持つ「両極化の時代」においては、それらをいかにつなげ、組織の中で共存させていくかが重要なキーワードとなる。そのためにはデジタルテクノロジーの力を最大限に生かして、異質なものとの重層的な「つながり」を構築していく作業が欠かせないが、残念ながら日本企業の対応は、世界に大きく立ち遅れているのが現状だ。デロイト トーマツが実施した『第四次産業革命における世界の経営者の意識調査(2020年版)』の結果も踏まえ、日本企業がポストコロナの世界で生き残っていくための経営変革の方向性と、実はポストコロナの世界こそ日本社会や日本企業が有している強みが生かせるということの真意を、松江英夫氏に聞いた。(前編はこちら

松江英夫
Hideo Matsue
デロイト トーマツ グループ CSO(戦略担当執行役)

経営戦略・組織改革/M&A、経済政策が専門。デロイト トーマツ グループに集う多様なプロフェッショナルの知見をグループ全体で共有し、より高い次元のインサイトやソリューションを継続的に創出・発信するためのグループ横断的なプラットフォームであるデロイト トーマツ インスティテュート(DTI)の代表も務める。中央大学ビジネススクール客員教授、事業構想大学院大学客員教授。フジテレビ「Live News α」コメンテーター。経済同友会幹事、国際戦略経営研究学会理事。主な著書に『自己変革の経営戦略~成長を持続させる3つの連鎖』(ダイヤモンド社、2015年)、『両極化時代のデジタル経営~ポストコロナを生き抜くビジネスの未来図』(ダイヤモンド社、2020年)など多数。

世界と乖離した日本の経営者の意識

── 前編では、あらゆる領域で「両極化」が進むこれからの時代には、デジタル・テクノロジーを活用して新たなつながりを構築していくことが重要というお話を伺いました。実際に日本企業の経営の現場ではそうした時代への認識とdXの取り組み意欲は高まっているのでしょうか。

 まだまだ、というのが率直なところです。というよりも、世界の意識から大きく取り残されているといった方が正確です。デロイト トーマツでは今年1月、ダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)に合わせて、調査報告『第四次産業革命における世界の経営者の意識調査(2020年版)』を発表しました。日本を含む世界19カ国の大手企業経営者を対象にしたアンケート調査なのですが、日本の経営者の回答をグローバルと比較すると、その大きな差に驚くばかりです。

 例えば、デジタル・テクノロジーの活用が大前提となる第四次産業革命に対して「全組織的な戦略策定が既にある」、あるいは「着手している」と答えた経営者はグローバルでは30%超に上るのに、なんと日本企業ではゼロでした。何かしら取り組んでいるという企業でも、せいぜい「特定分野・目的ごとの戦略がある」という段階にすぎません。

 また、第四次産業革命に「ポジティブな社会影響力増大」を期待していると回答した経営者はグローバルでは55%と過半数に達していますが、日本では36%と明らかに低い。このギャップから、デジタル・テクノロジー戦略を駆使すれば、経済価値と社会価値という両極なるものを同時に高められると前向きに捉える意識が、日本の経営者にはまだまだ浸透していないことが分かります。

── こうした日本企業の意識の低さは、グローバルプラットフォーマーのようなデジタル先進企業とどのような違いを生んでいるのでしょうか。

 これまでの経済活動では、モノやカネをいくら持っているかが価値の源泉でしたが、これからは、データで多面的、重層的につながることこそが価値の源泉になります。いうなれば「データ資本主義」の台頭です。このデータ資本主義において、驚異的なスピードで急成長を果たす「ユニコーン」と呼ばれる多くの新興IT企業が生まれたのも、デジタル・テクノロジーが持つ「つながり」の力があったからこそです。

 つまりデジタル先進企業は、質の高いデータを持てば持つほど、市場での存在感と影響力が大きくなることを理解し、データをどう経済価値化するかという課題に取り組む上で、API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を徹底活用し、既存の成熟した技術やインフラとつながり、使いこなすことで機動力のある経営を実現させているのです。

 情報の流れをつかみ、良質のデータを獲得して価値に変えていくためにも、日本企業もAPIに基づく「つながりのマネジメント」を駆使して、経営の機動力を上げる必要があります。

──「デジタルトランスフォーメーション」という言葉は日本でも頻繁に耳にしますが。

 その実態は、2025年問題を回避するためのシステム更新や、一部の業務にRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入してコストを削減するといった部分最適の施策がほとんどで、変革よりもリスク回避が主眼になっています。本調査の結果から浮かび上がってくるのも、本質的な変革の必要性から目を背け、短期的な効率化やコスト削減、部分最適施策に躍起になっている日本企業の姿です。まさに、前編でお伝えした″D″Xにとどまっている状況なのです。

 だからこそ、今後はデジタルを導入することを主目的(=大文字「D」)とした変革(DX)ではなく、デジタルをあくまでも手段(=小文字「d」)として徹底的に活用したビジネス自体の変革、異なるものや相反するものを多面的・重層的につなぎ合わせることで、ビジネスモデルやデータを意思決定に生かした経営の在り方自体を根本的に変革していく「dX = Business Transformation with Digital」が必要です。