集合的な記憶としてのデジタル・エクスペリエンス

 人と人との触れ合いが減るということは、デジタル技術を使ってブランドをより深く、記憶に残る方法で体現する必要があるということだ。

 ブランドにとっては、製品の使用体験を伝えることができるメディアを活用するチャンスだ。モーションデザインの新技術は、感覚的なディテールを捉え、新たなリアリティを生み出すことを可能している。

 デザインスタジオのマンバーサスマシーンが手がけたマットレス「パープル」のキャンペーンでは、その特徴である柔軟性が高い格子状の素材をねじったり圧縮したりして、弾力性と快適さを表現している。

 より超現実的なのが、モーションデザイナーのラッド・モーラによる「パット・マクグラス」のメーク用品の広告だ。デジタル化された液体が高級なシロップのように滑らかに流れ落ちる様子が描かれている。見る人に何かを「感じ」させることで、完璧な配置のパステル調ショットのノイズを排除している。

 こうした感覚は、デジタルショッピングにも適用することができる。オンラインショッピング体験のほとんどは一般的な枠組みを基に築かれたが、ミレニアル世代やZ世代は、かつてなく狭い美意識に傾倒しており、オンラインショッピングはもはや大衆の要求に応える必要はない。店舗は、商品と触れ合うための多様な方法の一つにすぎないのかもしれない。

 オンラインショッピングは、1990年代に人気を博したゲーム「ミスト」のような、探検を楽しむ超現実的な世界になりうるだろうか。

 グッチは、2018年春夏コレクションのバーチャルミュージアムのように、既成概念の枠を超えた独創的なマイクロサイトを制作してきた。スキンケアブランドのイソップが立ち上げたサイト「デザイン分類学」は、各店舗のデザインに使われている素材、色、テクスチャーを閲覧することができる。

 このように、わずかであってもワクワクする体験がブランドを際立たせる秘訣になりうる。特にラグジュアリーの世界では、体験の効果がブランドの認知度と直結する。

 テクノロジーはまた、すべての消費者に対し、お気に入りのアイテム(自分のサイズのもの)を試着室に事前に用意してくれたり、以前購入した商品を参考にアイテムを提案してくれたりするパーソナルショッパーがいるかのように感じさせることで、つながりを生み出すことができる。

 ニューミュージアムのインキュベーターNEW INC(ニューインク)のメンバー(私もその一人だ)は、映画『クルーレス』で主人公のシェール・ホロヴィッツが服を選ぶのに使っていたバーチャルクローゼットから、ホログラムのファッションショーまで、あらゆるものを実現させる拡張現実と人工知能のソリューションに取り組んでいる。メンバーのノヤ・コハビが開発した「リネージ」のような機械学習ツールは、アマゾンなど大手企業も実現できていない優れたレコメンド機能を持つ。

 当然ながらデータのプライバシーは最大の懸念事項であり、データの使用方法について透明性の高いブランドは、より信頼されるだろう。小売業はこれらの性質をデザインフローに組み込むのが遅れるほど、チャンスを逃すことになる。