起業家精神あふれる企業は、借入能力が低く、薄利で活動する傾向があるため、危機の最初の犠牲者となってレイオフに頼らざるを得なくなると、考える人もいるかもしれない。しかし、私たちの調査(未発表)では、こうした企業の多くは、大企業が見習うべき戦略を取っていることがわかった。

 シアトルを拠点とする決済代行会社グラビティ・ペイメンツの例を挙げよう。

 2015年にダン・プライスCEOが、従業員の最低年収を7万ドルに引き上げたことで大きな注目を浴びた(好意的なものばかりではなかった)。以来、グラビティは成長を続けた。しかし、今年に入って新型コロナウイルスのパンデミックの影響で、収益が50%以上落ち込み、数ヵ月で破綻するという危機に直面した。

 そこでプライスは、全従業員を小グループに分けて面談し、彼らが財務状況を理解していることを確認し、アイデアを求めた。ほどなくして全員が減給に合意し、高給の従業員ほど大きな打撃を受けた。

 ボストン都市圏の住宅リフォーム会社、アダムス+ビーズリー・アソシエイツ(ABA)の場合は、従業員に財務情報をすべて共有しており、このパンデミックが発生するはるか以前に、社の未処理案件から予測される粗利益と銀行に保有する現金から成る、「ジョブ・セキュリティ・インデックス」を開発していた。

 パンデミックの影響で未処理案件はほぼすべて保留となり、セールスリードの獲得が落ち込んだ。しかし、ABAにはまだ5ヵ月分の現金があり、従業員の中に信頼できるパートナーのグループがいた。

 そのグループは1週間で、新しいプロジェクト管理ソフトの導入など、生産的で実践できるアイデアを100近く出した。会社は、毎週のミーティングを、そのアイデアの優先順位付けに当てることにした。

 同じくシアトルにある有名な高級レストラン、キャンリスの例もある。

 キャンリスはパンデミックによってビジネスができなくなった。しかし、オーナーのマーク・キャンリストとブライアン・キャンリスはチームを招集し、新しいアイデアを3つ打ち出した。ベーグルとコーヒーをメインにしたモーニングビジネス、ドライブスルー式のハンバーガー、そして接客担当が配達を行うテイクアウトの高級レストランだ。

 ベーグルは需要に応えられず、ハンバーガーは交通渋滞を起こしたため、いずれも中止せざるをえなかった。しかし、ディナーサービスは大盛況で、会社は全従業員の給与を維持することができた。

 レストラン・コンサルタントのヘンリー・パターソンは、マーク・キャンリスに従業員の解雇を検討したか尋ねた。キャンリスはこう答えた。「いいえ。なぜ私が?」

 大企業はこうした起業家から教訓を得ることができる。その一つは、当然ながら健全なバランスシートを維持することだ。ボーイングやアメリカン航空などがパンデミック前に自社株買いに多額の資金を投じなければ、銀行にもっと多くの現金があっただろう。緊急事態を予測していなければ、それに対処することはできない。

 しかし、真の違いは、レイオフをしない企業の従業員に対する見方だ。簡単に使い捨てにできる資産としてではなく、信頼できるパートナーとして見ている。

 危機の只中にある現在も、従業員を解雇するよりもアイデアを探し求める企業は、結局のところ、解雇の必要はないと気づくかもしれない。公開書簡を書いたビジネス・スクールの学生たちは、そうした企業に心を打たれるだろう。私たちもである。


HBR.org原文:Run Your Business So You'll Never Need Layoffs, June 09, 2020.


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