なぜインドなのか

 2019年、米国は中国から4520億ドルに及ぶ膨大な物品を輸入した。低コスト国の中でこの額よりもGDPが高いのは、インド、メキシコ、インドネシア、ブラジル、タイの5ヵ国のみである。この中でインドは最大の経済圏であり、脱中国によって生じるサプライチェーン上の空白を部分的に埋める、最大かつ未開拓の可能性を持っている。

 米国国務省南アジア担当次官補代理のトーマス・ワイダは、先頃の在インド米国商工会議所とのバーチャル会議で、かなり率直にこう述べている。「現在、中国で行われている産業活動の多くについて、インドは早々に望ましい地域になるでしょう」(『エコノミック・タイムズ』紙)

 米印戦略協定フォーラム(USISPF)という業界団体のCEO、ムケシュ・アギ博士は、こう断言する。「米国企業は中国に代わる選択肢を探していますが、インドこそ、うってつけの場所です。英語を話す高スキルの労働人口があり、人件費は安い。そして何より、可処分所得が上昇中の13億人を擁する成長市場です」

 すでに「米国はインドにとって、今日の中国を上回る最大の貿易パートナーです」と言い添えたのは、ワシントンの全米商工会議所に属する米印ビジネス協議会(USIBC)のニシャ・ビスワル会長だ。実際に多くの米国トップ企業が、最大もしくは2番目に大きな拠点をインドに置いていると同氏は言う。

インドから何が買えるか

 米企業幹部らの間では従来、インドは香辛料、繊維、アパレル、宝石類、手工芸品の仕入先と考えられてきた。これらの製品もたしかに数十億ドル分が米国に輸出されてはいるが、インドはバリューチェーンのはるか上流へと移行している。

 アギによれば、米国海軍の大統領専用ヘリコプターであるマリーン・ワンの客室は、インドで組み立てられロッキード・マーティン傘下シコルスキーに納品された。米国市場向けのフォード・エコスポーツは、インドのチェンナイで製造されている。

 カリフォルニア州パサデナにあるNASAのジェット推進研究所は、インド宇宙研究機関と共同で、史上最も高価な観測衛星NISAR(ナイサー)を開発中だ。この探査機はインドで製造・打ち上げが行われる予定で、災害や地球規模の環境変化を従来よりも正確に観測する。

 インドはエビ、加工食品、農産物も米国に輸出している。またアギによると、インドで製造・輸出されるアップルのiPhoneは320万台に上る予定だ。

 インドは医療機器、省エネで環境に優しい輸送、パワー半導体、スイッチ部品、整流器を米国のニーズに応じて供給できると、USIBCのビスワルは断言する。インドはすでに、米国内で売られているジェネリック医薬品のおよそ40%を供給し、これらは米国食品医薬品局の検査と承認を受けた工場で生産されている。

 筆者らはこの現象を「インド・インサイド」と呼んでいる。インド輸入品の中には、米国の消費者にもメディアにも知られていないものが多くあるが、それらは米国経済の骨組みに欠かせないのだ。

 とりわけ、新型コロナウイルス感染症の診断・治療と予防接種に必要な機器、使い捨て用具、医薬品については、インドの工場は自国、米国および世界の需要に応えるべく、大量生産を拡大できるはずだと筆者らは考えている。

 輸出主導の中国とは異なり、インドの企業は1991年の経済自由化以降、積み上がる国内需要に応えることで急成長を遂げてきた。その過程でインドの経営者と起業家は、世界展開するための経営スキルと品質基準を獲得してきたが、最初に進出したのは中東、ASEAN諸国、アフリカ、東欧の市場であった。

 インド商工省の現時点での詳細なデータによると、インド企業は幅広いカテゴリーでそれぞれ数十億ドルの輸出をしており、ここには家具、医療・手術器具、電気機械、船舶、車両、ボイラー、プラスチック部品、鉄・アルミ、有機・無機化学品などが含まれる。

 これらを供給するインド企業の多くは、先進国市場に進出する準備が整っていると思われる。米国企業はこれらを含むさまざまな物品を、インドの取引相手から調達可能だ。中国とは異なり、これらのサプライヤーは政府とのつながりもない。