●「いつも通り」以上を目指す

 危機のとき、会社の価値を守るために必要なことをすべてやるのが、ビジネスリーダーに求められる教科書的な期待である。だが、生き残りが最優先という本能を超えることが、チームに希望を示し、退行段階からの脱却を可能にする場合がある。

 筆者が出会った最高のリーダーたちは、今回のパンデミックで明らかになった会社の最大の問題について、解決法を考えたり、話し合ったりすることに時間を費やしている。目先の混乱の解決ではなく未来に目を向け、次はどんなことが起きるかを予測し、会社が最大の価値を提供できる場所はどこかを考える。危機の心理学ではこれを再方向づけ(reorientation)と呼ぶ。

 再方向づけをすると、あなたのチームは回復段階に目を向けるようになる。そこでの問いは、「この危機にどう対処するか」ではなく「この危機からどう抜け出すか」になる。

 さらに、危機によって、あなたの会社が社会にどんな価値を生み出しているかが明らかになる。「とにかくビジネスを」という考え方を超越すると、会社のことを危機の犠牲者や生存者としてだけでなく不可欠のアクター、すなわち健康と社会と経済が複雑に絡み合う問題の解決に貢献する存在として見られるようになる。

 たとえば、デンマークの海運大手A.P. モラー・マースクは、そのロジスティクスを駆使して「高速ボーディングブリッジ」を構築し、大量のマスクやフェイスシールド、外科用ドレープを医療従事者に届けることに貢献した。

 フランスの高級ブランドLVMHは、香水の生産施設を手指消毒剤の生産に切り替えた。衣料品ブランドZARAを傘下に持つスペインのインディテックスは、きわめて柔軟性の高いサプライチェーンを駆使して、医療従事者向けの個人防護具(PPE)を生産した。こうした企業のリーダーは、自社の危機を管理するだけでなく、社会全体の危機管理もサポートしている。

 この種の思考は、大手企業だけのものではない。再方向づけは、あなたのチームが、短期的なリスクから会社の大局的な貢献と長期的な機会に目を向けることから始まる。チームとして、先を見据えて、次の大きなアクションについて話し合う時間をつくれば、チームメンバーがやる気を出し、大きな仕事を任されたと感じ、共通の目標に向けて再び結束する助けになるだろう。