人間関係管理

 人間関係管理では、社会性、つまりほかの人たちの感情の理解に基づいて、彼らと好ましい関係を築くことを目指す。

 新型コロナウイルス感染症の影響により、業務量が増加し、不安と悲しみの感情が高まっている医療現場では、これを実践することが、ことのほか難しい。それに、一緒に働く同僚の中には、最近はじめて接するようになった人たちも少なくないだろう。新しい業務に配置転換された人や、ローテーション制で働く人たちもいるからだ。

 高いレベルのパフォーマンスを維持するためには、新しい人間関係を素早く確立しなくてはならない。また、患者と良好な関係を築ければ、患者は医療スタッフの指示に従う確率が高まる。

 この点は、現在の状況下できわめて大きな意味を持つ。新型コロナウイルス感染症の患者の中には、自宅で療養している人も多いからだ。

 そこで、相手の身になって考えることが重要になる。相手が抱いている感情を理解できれば、その人にとって最適な方法で手を差し伸べることが可能になる。患者と話すときは、相手の言葉に反応するときの自分の声のトーンや表情に、細心の注意を払おう。適切な声のトーンや表情は、相手に安心感を持たせる効果を持つ。

 ほかの人と接する際は、常に忍耐を大切にしよう。具体的には、相手が通常の状況よりも感情をあらわにすることを許容すべきだ。この点では、医療現場も例外ではない。同僚との関係では、とりわけそれが重要になる。

 医療従事者は、癌告知や家族の死など、患者や家族が聞きたくないことを言い渡さなくてはならない場合が多い。新型コロナウイルスの感染拡大により、さまざまな面で、この傾向に拍車がかかっている。そのような経験をすれば、涙を流したり、集中力が減退したり、気が短くなったりしても不思議はない。

 このような状況下では、誰もが――リーダーは特に――ほかの人たちの善意を前提に行動すべきだ。つまり、全員が最善を尽くしているものと見なすのである。こうした考え方で行動すれば、良好な人間関係が築かれて、厳しい時期を乗り切りやすくなるだろう。

 いま多くの医療機関のリーダーは、新型コロナウイルス感染症が病院経営に及ぼす悪影響に対処し、ときにはレイオフや給料の引き下げなどの厳しい決断を迫られている。

 このような状況では、現在の状況について、透明性のあるコミュニケーションを行うことがきわめて重要だ。命がけで働いている看護師や技師や医師が、リーダーが自分たちに対して正直でないと思えば、モチベーションが大きく落ち込みかねない。

 情報共有のためには、必ずしも仰々しい仕組みは必要ない。たとえば、本稿の共同執筆者であるフェッセルが勤務するミシガン大学の病院システムでは、上層部から毎日、メールで新型コロナウイルス関連の最新情報がスタッフに配信されている。入院患者数、空きベッド数、スタッフの安全に関わる状況、そして回復した患者の数などがわかるようになっているのだ。

 そのメールの末尾には、いつもこう書かれている。「さらに疑問がある場合は、ここを参照」。そのリンクをたどれば、膨大な量のデータを見ることができる。

 もう一つ、あらゆる階層のリーダーが知っておくべきことがある。研究によると成果を高めるために、ときにはペースを落とす必要があるのだ。

 重要な局面では、とりわけそうだ。「これは重要な問題だから、ゆっくりやろう」と言うだけで、とげとげしい会話のトーンを和らげたり、重要な決断を下すときの緊張をほどいたりすることができる。こうした戦略は、厳しい会話や重要な意思決定をするときや、相手に「ありがとう」を言うときに役立つ。

 以下、自分自身に問い掛けてみよう。

・ほかの人たちと接するときに、ひときわ強い忍耐を発揮し、その人たちの言動について最も好意的な解釈をしているか。
・リーダーとして、透明性のある情報共有ができているか。
・頻繁に、明瞭なコミュニケーションを取り、フィードバックを受け入れる姿勢を示せているか。
・相手に「ありがとう」を言うときなど、重要な局面でペースを落として行動できているか。

* * *

 麻酔科医の端末が再び鳴る。彼女は深呼吸をして自分を落ち着かせ、自分がこの仕事をしている深い目的を再確認し、素早く患者のいる場所に向かう。

 部屋に入ったあとは、チームの面々の声のトーンやボディランゲージに注意を払い、同僚たちがストレスを抱えていないか気を配る。いまは、こうしたことに、ことのほか留意する必要がある。はじめて一緒に仕事をするチームだからだ。

 気管挿管が終わり、患者の状態が落ち着くと、意識的に行動のペースを落とし、スタッフ一人ひとりにお礼を言う。マスクとフェイスシールドの奥で、一瞬だけ笑みを浮かべる。

 チームの面々の顔はマスクに隠れていて、見ることができない。それでも、ほかのみんなも、患者のことを、そして互いを気遣うことで生まれる暖かい気持ちと深い絆を実感しているに違いないと、彼女は感じている。


HBR.org原文:How Health Care Workers Can Take Care of Themselves, May 20, 2020.


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