自己認識

 医療従事者は最近特に、みずからの感情に大きな重圧がかかる瞬間を避けて通れない。自分が何を感じているのか、その感情に自分がどのように反応しているのか、そしてそれが自分のパフォーマンスにどのような影響を及ぼしているのかを知ることは、その感情をマネジメントするための最初の一歩になる。

 しかし、医療現場ではあくまでも患者が中心なので、医療従事者がみずからの状態に注意を払うのが難しい場合が多い。医学部、研修医研修、専門医研修など、医師のトレーニングのすべての期間を通して、自分をケアすることよりも、患者をケアすることに重きが置かれる。

 医療ニーズが高まっていて、自分が役立つスキルを持っていれば、ついみずからのニーズをないがしろにしてしまう。医師や看護師は、食事や睡眠、ときにはトイレの時間まで犠牲にすることがある。

 過酷な業務が続く麻酔科医も、勤務時間中は常に極度の緊張を強いられる。自分がそのような状態にあると意識する時間すらない。

 仕事が終わっても、その状態は続く。家で誰かに厳しく当たる。ベッドに入っても、安全な場に身を置いているはずなのに、まだリラックスできず、なかなか寝つけない。そして、それが翌日の仕事にも響く。

 医療従事者が自分の状態に注意を払い、みずからをケアすることは、自分勝手な態度などではけっしてない。それは、患者の力になり、患者を助けるために、不可欠なことだ。

 日記を書くなどして内省することは、自分がどのような状態にあるかを、より掘り下げて理解する手立てになりうる。手洗いなど、日常の行動を取る機会を利用して、マインドフルネスを実践するのもよい。そうすれば、自分をケアし始めることができる。「私はいまお腹が空いていない? 喉が渇いていない? 疲れていない?」などと確認しよう。

 どのような形にせよ、いま自分がどのような感情を抱いているかを意識すれば、感情を司る脳の領域ではなく、より高次の活動を担う前頭前皮質の活動が活性化する。物事の本質を理解し、創造性を発揮し、新しい視点で問題をとらえ直すためには、脳のこの領域が働かなくてはならない。「(感情を)手なずけるためには、それに名前をつけよ」と、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のダン・シーゲル教授(精神医学)が述べている通りだ。

 自分の経験を自分自身に語るときに用いる言葉、いわゆる「セルフトーク」も、みずからの感情の状態を転換する出発点になりうる。自分の置かれた状況を見て、「ありえない!」と言う人は、「この試練には対処できる」と言う人より、悲観的な思考を抱きがちだ。

 リーダーが自己認識を持つことの意義は、とりわけ大きい。リーダーは、病院で働く人たちの感情面のトーンを左右する存在だからだ。

 責任者が激しいストレスを感じていて、受け身の思考に陥っていると、医師や看護師や技師は疲弊しやすい。「私は、自分が関わっている場に、落ち着いたエネルギーをもたらせているか」「自分の抱いている私的な不安や恐怖、ストレスが周囲の人たちに伝染していないか」といったことに注意を払うべきだ。

 以下、自分自身に問い掛けてみよう。

・自分の感情を認識できているか。
・自分の感情をどのように表現していて、それがほかの人たちにどのような影響を及ぼしているかを認識できているか。
・自分のセルフトークのトーンは、どのようなものか。
・自分の人間としての基本的なニーズは満たされているか。