●プレゼンテーションの文化を変える

 スライドのプレゼンテーションが揶揄されるようになって久しいが、企業ではいまだに多用されているようだ。情報を手早く示すという点では、スライドは抗しがたいほど効率的だ。

 しかし、抵抗は可能である。ロンドンを本拠とするスタンダードチャータードは、アジアとアフリカにも広く展開する世界最大級のリテール銀行だ。

 同行のリーダー陣は、ある時点で気づいた。パワーポイントのプレゼンによって、最も重要なコミュニケーション様式が阻害されている。会議の場で参加者はスライドに意識を注ぎ、発表者に対してはほとんど注意を払っていないのだ。

 そこで同行は2018年、スライドの使用を大幅に減らした。

 いまでは従業員は、細かい情報ばかり注視することはない(それらはもちろん、スライド以外の形式でも伝達できる)。互いに目を合わせるようになり、発表者の話は議論の出発点にすぎないと捉えるようになった。情報の全体量は減ったが、繊細な議論と協働が増えたのである。

 ●デジタルのコミュニケーションのほうが効果的な場合があることを、念頭に置く

 2015年に発生したバルト海の凍結は、本当に不可抗力の事態であったが、マースクの顧客はそれでもクレームを寄せてきた。コールセンターのオペレーターは説明を試みるも、うまくいかずに終わることがたびたびあった。

 そこで同社は船長らに、氷の中を進む困難を写真に撮らせた。そしてツイッターにWinterMaerskというアカウントを作成して写真をアップし、電話オペレーターはこのアカウントを伝えた。

 すると顧客の多くは即座に、貨物輸送の実状を正しく理解し、遅延へのいら立ちをやわらげた。同社は新たに生まれたこの同情を、翌年に注文数の増加を確保できた一因として評価している。

 ほとんどの企業は、同僚や顧客と人間的な形で接することの重要性を認識し、感情的知性とコミュニケーションスキルの研修を提供している。とはいえ、業務プロセスの設計に関しては、最も効率的に見えて、高度にデジタル化されたアプローチを標準にするケースが非常に多い。

 幸いにも、テクノロジーによる効率化のメリットの多くは、人間味を犠牲にしなくても享受できる。ただしそのためには、顧客満足と従業員エンゲージメントを常に重視することが条件となる。


HBR.org原文:Don't Let Digital Transformation Make You Less Human, May 20, 2020.


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