●業務上のインセンティブに注意を払う。サービス業務を本部で一元管理する場合は特に

 巨大コンテナ船を運航する海運大手マースクは、長年にわたり、きわめて合理的に業務を運営し、非常に先進的なITシステムを有している。

 数年前に同社はグローバル・シェアード・サービスという部署を設立した。その目標は、各地に散在し輸送をサポートする物流オペレーションのすべてを、デジタルで管理監督して効率性を高めることだ。その対象には、コールセンターも含まれる。

 新設部署はコールセンターのパフォーマンス向上を望み、それを念頭にKPI(重要業績評価指標)の導入とオンライン報告フォームの標準化を実施した。コールセンターのオペレーターは、一般的な顧客支援義務に代わり、「チェックボックス」式のアプローチを要請された。これは、顧客の状況が特定の条件を満たす場合のみ、特定の支援を提供するという方法である。

 オペレーターにはさらに、会社が顧客のクレームから学べるようにと、毎回の電話後に記入する4~5ページの報告フォームが用意された。ボーナスは主に、オペレーターが日ごとに処理した電話件数というKPIに連動することになった。

 ところが、オペレーターの多くが遠く離れた監督者からのプレッシャーを感じるようになるにつれ、よく考えられたこの方針はまったく効果を上げなくなった。

 彼らは輸送トラブルに関して、以前にはめったに用いることがなかった説明――「不可抗力」という項目にチェックを付け始めたのだ。つまり、貨物の遅延や損傷は、自社のコントロールが及ばない何らかの外部要因よるという意味である。

 不可抗力案件については、オペレーターは1ページだけのフォームに記入すればよいため、すぐに次の電話に移ることができる。したがって、顧客の問題を理解することや、解決策を探すことに時間を費やす必要がない。

 当然ながら、顧客は満足しなかった。オペレーターたちは制度の抜け穴を悪用していたわけだが、そう動機づけたのは本質的には会社側だったのだ。

 マースクは2016年、株価の急落と20億ドルの損失に見舞われた後、グローバル・シェアード・サービスを廃止し、物流の運営方法については各地域に自主裁量を与えた。

 いまではコールセンター勤務者のほとんどに、良識に基づく指標が与えられ、顧客の問題についてはるかに有益な情報がもたらされている。顧客も満足度を高めており、同社の全世界でのネットプロモータースコアは1年で2倍になった。

 地域分権はたしかに、ある程度の非効率も生んでいる。地域間で共通の課題については、中央の本部に頼らず互いに協議しなければならない。しかし、顧客とのより強固なつながりが得られることで報われているのだ。

 2017年、効率の問題がより広範囲で生じた。壊滅的なサイバー攻撃によって、同社の全ITシステムが1週間のダウンを余儀なくされたときのことだ。

 輸送を維持するために、従業員はPCの画面から離れて顧客や港湾管理者に電話をかけ、時には港湾に車で駆けつける必要にも迫られた。こうしたやり方は非効率をきわめ、収益にも短期的に損害が及んだ。

 ところがマネジャーらによれば、すべてが復旧した後には、士気と生産性が著しく高まったという。従業員は急遽、自分たちの仕事相手を目にし、その声を聞き、単なるスクリーン上の登録情報ではないことを実感したのだ。

 新たに活力を得た同社はその後、理に適っていない諸々の方針を廃止し、サイバー攻撃の翌年には収益を2倍以上に伸ばした。