(6)きちんと生活できる賃金を支払う

 ここ10年ほど、米国の連邦最低賃金は頭打ち状態で、その上昇ペースは物価上昇率さえも下回ってきた。このことは黒人労働者の生活に偏ったダメージを与えている。多くの黒人は生活をしていくために、複数の仕事をかけもちしている。だが、最低賃金を時給15ドルに引き上げた州は、経済が成長し、豊かになってきた。

 きちんと生活できる賃金を支払うことは、企業が予想するほど大きな負担にはならない。研究によると、十分な賃金を支払い、手厚い福利厚生を提供し、時給労働者も丁寧に扱う企業のほうが、そうでない企業よりも高い利益を上げている。ウォルマートでは、未経験者の賃金を時給12ドルに引き上げたところ、生産性が高まり、離職者が減り、収益が増加した。

 週40時間労働を超過したり、従業員の生活を混乱させたりする急なシフト変更はやめよう。アパレル大手のギャップ(GAP)は、従業員のシフトを2週間前までに決定するルールを徹底したところ、店舗売上高が7%増えたという。

(7)有給の育児休暇や病気休暇を定める

 米国には有給の産休・育休制度がない。しかし、非白人女性のほとんどは、出産時に無給でまとまった休暇を取る経済的余裕がない。乳幼児の脳の成長やウェルビーイングにとって、母子の絆が重要な役割を果たすことを考えると、母親に対するケアがなければ、子どもに生涯にわたって影響を与えることは明白だ。

 有給の病気休暇がないことは、もっと重大な問題であり、非白人が新型コロナウイルス感染症に偏ってさらされている理由の一つでもある。企業がすべての従業員に有給の育児休暇と病気休暇を与えれば、豊かで生産的な労働力を維持する助けになるだろう。

(8)十分な健康保険を提供し、国民皆保険を支持する

 米国企業における従業員の健康保険料負担額は、税額の2倍にも上る。これは企業の国際的競争力を大きく妨げるとともに、賃上げを妨げ、従業員の保険料負担が引き上げられる原因にもなってきた。運良く会社が健康保険を提供してくれる場合でも、賃金の手取り額が大きく目減りする事態が生じている。

 企業は、従業員の健康保険料負担を減らし、きちんと生活できる手取り額を確保しよう。また、企業側の負担を減らし、無保険の人(多くは非白人だ)が健康保険に加入できるようにするためにも、国民皆保険制度を支持すべきだ。米国における新型コロナウイルス感染症による死者が、黒人とヒスパニックに偏っていることは、医療の平等を確保する必要性と、国民皆保険制度の必要性をあらためて強調した。

(9)従業員向けの緊急支援基金や低金利融資制度をつくる

 緊急時に400ドルを支出する貯蓄さえない米国人は、約40%にも上る(非白人に偏っている)。しかもそれは、新型コロナウイルス感染症が、無数の人の脆弱な経済状態を破壊する前のことだ。こうした人たちは、緊急に資金が必要になったら、ペイデイローン(給料日に返済する短期融資)か、クレジットカードで高利の借金を積み上げるしかない。

 緊急時に、雇用主が数百ドルでも給料を早期払いしてくれる制度があれば、従業員にとっては人生が変わるほどの助けになる。

 また、2週間収入がないことに耐えられない従業員は多いので、給与を現在の2週間おきではなく、毎週支払うシステムに変更することを検討しよう。あるいはペイアクティブ(PayActiv)と提携して、給料日まで待たなくても、従業員が働いた分だけ給与を引き出せるようにしてもいいだろう。

(10)求職者の応募書類を民主化する

 求職者が提出しなければならない応募書類から、「重罪の有罪判決」という項目を削除しよう。この項目は、非白人を偏って排除することになるからだ。

 また、法的あるいは職種的な要件でない限り、マリファナをはじめとする違法薬物の使用検査は撤廃すること。

 さらに、EYやグーグルやホールフーズのように、高等教育を必要としない職種については、大学の学位を採用条件からはずそう。高卒資格がない黒人の若者は、米国で最も失業率が高いグループだ。彼らを積極的に採用して、訓練し、メンターをつけ、サポートするプログラムをつくろう。タレント・リワイア(Talent Rewire)の調査によると、中卒の黒人の若者も、しっかりしたマネジメント研修を受けると、生産的かつ忠実な従業員になることができる。

 こうした措置を取っても、米国社会から構造的な人種差別を取り除き、抗議行動を鎮静化し、黒人に対する暴力を根絶することはできないだろう。だが、上記の10の取り組みは、いずれも企業の権限で実行可能で、大きな違いをもたらせる。また、企業の収益を一段と押し上げ、経済を成長させ、多くの人の生活を大きく改善し、より公平で、レジリエントで、豊かな国をつくる助けにもなるだろう。

 10個すべてでなく1つ実施することでも、違いをもたらすことはできる。あなたの会社は、いくつ実践できるだろうか。


HBR.org原文:The 10 Commitments Companies Must Make to Advance Racial Justice, June 04, 2020.


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