(1)感情を制御する

 ありとあらゆる面で感情的になっていると、物事を理路整然と考えるのは難しい。ましてやいまは、感情的になりたくなることがたくさんある。

 早く仕事に戻りたくて仕方がないのであれ、キャリアチェンジという気落ちするような課題に直面しているのであれ、自分の感情を制御することは重要な第一歩だ。これは感情を麻痺させることなく、そのレベルをコントロールすることを意味する。

 その方法としては、自分をサポートしてくれる人と話をしたり、マインドフルネスを実践したり、深呼吸や運動をする方法がある。いずれも人間が「脅威」モードにあるときに上昇するコルチゾールのレベルや、脳内のアドレナリンのレベルを下げることができる。

 あなたがもし、悪いニュースを受け取っても、忙しく過ごすことで考えないようにするタイプなら、新しい状況をじっくり受け止める時間を持つことが助けになるかもしれない。いくら考えないようにしても、感情は存在して、無意識に私たちの行動を左右している。

(2)センスメイキングに努める

 感情を制御すると、何がどうして起こり、それが自分にとって何を意味するかがわかってくる。心理学者はこのプロセスを「センスメイキング」と呼ぶ。これをやると、状況をある程度コントロールできているという感覚を取り戻すことができる。パンデミックのような大きな危機の中で、自分の身に降りかかったことを考えるとき、これは特に役に立つ。

 筆者の研究では、センスメイキングには2種類あり、ポジティブな未来や成長をもたらしてくれるものと、泥沼から脱却するのを難しくするものがあることがわかった。人間は、自分の失敗や不運ばかり考えると、萎縮して、それ以外のことが見えにくくなる。

 ピーターは、プロのドラム奏者だったが、腕の怪我が完治せず、キャリアを断念せざるをえなくなった。仕事を愛していたけれど、それまでと同じ形では続けられなかった。

 だが、音楽は彼のアイデンティティの中心を成す重要なものだったため、ピーターは違う仕事を考えることができなかった。教える仕事にも挑戦したが、演奏活動がやりたいとずっと思い続けていた。

 彼のセンスメイキングは、自分が失ったものと、その原因に集中していた。数年後、彼は依然として治療法を探していて、こんなひどいことがなぜ自分の身に起きたのかと問いかけていた。そのせいで、自分が歩んでいたはずの人生がめちゃくちゃになったという考えから抜け出せず、ポジティブな未来を思い描けなかった。

 ピーターのセンスメイキングは、しつこいほどの問いでいっぱいだった。過去に起きたことへの説明を求め、それがなければ人生は違っていたはずだという、現実を否定する思考に終始していた。「なぜ自分なのか」「誰のせいなのか」「何をやれば、あるいはやらなければ、こんな運命を避けられたのか」「あんなことがなければ、どんな人生を送っていただろう」「どうすれば昔の仕事に戻れるだろう」と。

 筆者の研究では、自分の経験やアイデンティティの一部を活用したり、拡張したりする方法に意識を移すと、ピーターのような泥沼にはまるのではなく、新しい成長の基盤をつくれることがわかった。こうした人たちのセンスメイキングは、自分のスキルや経験が新しい仕事にもたらす価値の発見につながった。

 これは、以前と同じような役割を求める人にとっても、そうでない人にも有効だった。自分の性格や仕事上の資質を、新しいキャリアでもポテンシャルがある証拠だと考えられるようになると、新しい可能性が見えてくる。

 ゴードンは、人当たりがいいネットワークづくりの達人で、イベント企画の仕事から不動産業に転職した。クララは、コンテンポラリーダンサーだったが、健康や体の仕組みに強い関心があることに気づき、国際的な高級ヘルススパの経営者になった。

(3)小さな実験を活かす

 センスメイキングは、思考だけのプロセスではない。ゴードンとクララが新しいキャリアパスを見つけたのは、小さな(必ずしも意図的ではない)実験を繰り返して、新しい生き方を少しずつ構築した結果だ。その過程では、友達の手伝いをしたり、昔の趣味を活かしたり、誰かの講演を聞きに行ったり、短期的な仕事を引き受けたりした。

 こうした新しい経験を積んでいくうちに、けっして自分が望んだわけではないキャリアシフトは、実のところ長い間、必要とされていた変化の「触媒」だった、あるいは自分に新しい世界を開いてくれた「プレゼント」だと考えられるようになってくる。また、苦しい経験を経て、自分のアイデンティティがもっと豊かで、強く、広くなったと感じた。

 ゴードンとクララは、次に何をしようかと考えるとき、過去の仕事やアイデンティティを振り返った。そして、「自分はあの仕事に何をもたらせたか、それは将来どんな助けになるだろう」「自分の役に立たない部分はどこだったのか」「自分のどの部分を伸ばしたいか」「あの仕事は、どのくらい楽しかっただろう」「自分の要求や関心にどれくらいマッチしていただろう」「次の仕事では、自分はどう変わりたいだろう」といった問いを自分に投げかけた。

 パンデミックのような危機がなくても、仕事やキャリア、ライフスタイルは変えることができる。だが、多くの人にとって、変化を起こすうえで最も難しいことの一つは、それについて考える時間と心の余裕をつくり、思い切って飛躍する勇気を出すことだ。

 仕事を失うことは辛いが、それは私たちに変化を強いてくれる。過去に例のない危機のときに、もしあなたが一時帰休を言い渡されたら、思い出してほしい。これは、自分が本当は何者で、何をやりたいのかを見直す、予期せぬチャンスかもしれない、と。

 それは、失った仕事よりも、やりがいを感じられる仕事に就くための一歩を踏み出すチャンスなのかもしれない。現在の状況をよく考えて、その意味を見極める行動を起こせば、キャリアにおいても、プライベートにおいても、次のステップの基礎となるナラティブ(物語)を構築できるはずだ。


HBR.org原文:Making Sense of the Future After Losing a Job You Love, April 30, 2020.


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