多くの人にとって、仕事は起きている時間の多くを占めるだけでなく、自分は何者かというアイデンティティの大きな部分を占める。それが、自分のこよなく愛する仕事である場合、あるいは長い年月をかけてキャリアを築いた仕事である場合、そのインパクトはとりわけ大きくなる。ともすれば、打ちのめされるような影響を与える場合もある。

 好況のときでさえ、仕事を失うことは、人生で最もストレスフルな出来事の一つだ。それは近親者との死別や、結婚生活の破綻、あるいは怪我に近いストレスをもたらす。しかし、新型コロナウイルス感染症(Covid-19)のパンデミックと、それに伴う不況と雇用喪失は、その拡大以上に、人々の自意識にとりわけ大きな打撃を与える可能性が高い。

 なぜなら、一部の産業はけっして立ち直れないだろうし、復活するとしても、これまでとは非常に異なる形になる可能性があるからだ。また、ソーシャル・ディスタンシング(社会的距離)は、これからも何らかの形で続く可能性が高いから、一時帰休扱いとなった人の多くは、新型コロナ以前と同じタイプの仕事には戻れないだろう。

 パンデミックの影響をほとんど受けていない業界も、将来は不透明だ。アフターコロナの経済では、職探しも難しくなるだろう。

 だが、絶望することはない。筆者はこの10年間、大切に思っていた仕事を辞めなくてはならなくなった人たちを研究し、実に多くの人が、挫折を乗り越える方法を発見したことを明らかにした。

 彼らの多くは、アイデンティティの危機に直面した。サラヤ(仮名、以下紹介するすべての人も同じ)の例を紹介しよう。彼女は空中アクロバットダンサーだったが、怪我でバランスをうまく取れなくなってしまった。

「心にぽっかり穴が開いた。空中アクロバットは私のアイデンティティの一部だったから。(中略)『演技ができないなら、私は何者なのか』と苦しんだ。『新しいキャリアなんて、本当に私がやりたいことなのか。演技をすることは人生の大きな一部だったのに、それのない人生なんて送れるのか』とね」

 民間機のパイロットだったスティーブは、重度の不安に陥り、飛行機を操縦できなくなった。そのときはじめて、パイロットの仕事のある側面を自分が大切に思っていたことに気がついたという。

「現役時代は、パイロットに対する敬意の念を自分から求めたことはなかったし、その地位に執着したこともなかった。でも、皮肉にも、飛行機を操縦しなくなったら、そのアイデンティティを恋しく思っている自分に気がついた」

 筆者の研究では、キャリアを手放さなければならなくなった人のほとんどは、有意義な新しい人生を見つけ、なかには以前よりも大きな充実感を得ていることがわかった。

 それは、壊れたアイデンティティと折り合いをつけ、新たな可能性を見つけることで実現できる。自分にそんな部分があったなんて知らなかった、という発見をする人も多い。すると新しい方向性や、新しい仕事の可能性が見えてくる。

 たしかに、仕事を失ったショックや悲嘆からそこまで立ち直るには、時間と努力と意思が必要だ。しかも新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、採用凍結やサポートネットワークからの孤立、さらには近親者の世話をするという新たな負担をもたらす。しかしそれは、ポジティブな変化と、成長に向けて歩み始める時間と自由も与えてくれる。

 筆者の研究では、新たな人生を見つけた人の多くは、3つのステージを経て、悲嘆から成長へと移行していくことがわかった。