実例からのアドバイス

 ケーススタディ(1):隠し立てせず正直に、知らないことは知らないと認める

 ユージェニー・ファニングは、ニューヨークを拠点とする商業不動産業のスタートアップ、スクエア・フットの人事担当バイスプレジデントだ。

 彼女はこの困難な期間に、自分のチームに対してできる限り「正直であり、かつ透明性を高く保とうとしている」と言う。しかし同時に、将来のことはわからないと認めている。「それは、私にも未知の世界です。でも、すべてに答えられなくてもいいのです」

 新型コロナウイルスのパンデミックで、スクエア・フットは厳しい決断を迫られた。危機の初期にCEOのジョナサン・ワサーストラムは、営業費と出張費の削減、それに経営幹部10人(ユージェニーを含む)の減給を発表した。さらに2週間後には、減給が社員全体に及ぶことを表明した。

「CEOは予算のどこを削減するのか、いくら削減するのかを明快に示しました」と、ユージェニーは話す。「しかし、誰もがレイオフの可能性を心配し、多くの管理職が、その件で質問攻めに遭っていました。私は会社からのメッセージが一貫するよう腐心しました」

 そこでユージェニーは、直属の部下や社内の他のマネジャーと頻繁に、電話で1対1の対話をした。彼女は単刀直入かつ自信に満ちた口調で、「将来何が起こるかはわからないけれど、いまのところレイオフについての話し合いは、いっさいしていません」と語ったと言う。「目的は、チームをできるだけいまの状態で維持して、危機が終わったときにも最善の位置にいることなのです」

 ユージェニーはまた、率直にこうも語った。「これは未知の領域です。3~4ヵ月後、再検討することになるでしょう。でも、万事うまくいけば、絶好調な状態で戻ってこられるでしょう」

 ユージェニーは部下とすでに、堅固で信頼性のある人間関係を築いていたため、メッセージは円滑に受け取られた。

 世界規模のパンデミックによる不確実性はさておき、スタートアップでのキャリアが全体像を把握するのに役立った。「私は過去に解雇されたこともあるし、解雇したこともある」と語る。「スタートアップは困難の連続だから、打たれ強く乗り切っていくしかありません。それでも、初めての人にとっては心配でしょう」

 スクエア・フットではふだん、従業員がCEOやCOOに無記名で質問できる全員参加のミーティングが2週間に1回のペースで行われていた。しかし、いまではこのミーティングの頻度が週1回になり、中間管理職もより深く関わるようになっている。

 ユージェニーは、話のトーンがポジティブで強くなるよう、会社のリーダーたちを指導しているという。「メッセージがただ『なんとか乗り越えよう』で終わらず、『事態が収束したときには、これまで以上に強い立場に立っていられるよう、いまこのような方策を取っている』と伝えるといいでしょう」

 また、ユージェニーは会社の最近の成功を強調することに特に力を入れて、自分自身が自信に満ちていると聞こえるように努めている。「当社が獲得した案件を共有することで、従業員全員が貢献していることを知ってもらいたいのです」と語る。