●危機を個人的なものにする

 人間の脳はストーリーを語るようにできている。歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリはベストセラーとなった著書『サピエンス全史』で、人類はストーリーを通してのみ世界を征服できたと主張している。私たちの高度な言語能力、特にストーリーを通して互いにつながる能力は、他の種にはできない方法で協力することを可能にした。

 危機に際しては協力が不可欠であり、有能なリーダーは力強くストーリーを語れなければならない。

 ホワイトハウスの新型コロナウイルス対策調整官、デボラ・バークス博士はその代表例だ。バークスは、個人的なストーリーを用いて聴き手とつながることに定評がある。3月25日には、ソーシャル・ディスタンシング(社会的距離)の重要性を強調するため、胸が締め付けられるようなストーリーを語った。

 バークスの祖母リアは、世界で約5000万人が犠牲になった1918年のインフルエンザ大流行の際、わずか11歳だった。リアはインフルエンザに感染し、母親にうつしてしまった。免疫不全疾患を患っていた母親は、それが原因で死亡した。

「学校に通っていた自分が、何も知らずにインフルエンザを自宅に持ち帰ってしまったことを、(リーは)けっして忘れなかった」とバークスは述べた。「祖母は88年間、それを背負って生きた。これは空論ではない。現実だ」

 バークスがこのストーリーによって強調したかったのは、すべての米国人が互いを守る役割があるという、重大なメッセージだ。このメッセージが功を奏したのか、4月8日にバークスは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の推定死亡者数が、「米国人が(中略)行動変容を実行している」ため、減少したと発表した。

 ●3の法則に従う

 レトリックや説得術の専門家らは、人は3つにまとめられたものを好むと主張する。なぜなら、短期記憶の中には限られた数しか留められないからだ。

 指示を与えるときも、指示を3つにすれば相手はすべて覚えるだろう。5つや6つ、それ以上だと、おそらくほとんど忘れてしまう。そして、人は覚えていないものに基づいて行動することはできないのだ。

 危機の中では、数は少ないが具体的な指示を与えるリーダーほど、人々を動かす。

 米国国立衛生研究所(NIH)傘下の国立アレルギー感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長は、率直な話し方と揺るぎない態度が広く評価されている。CNNはファウチを、複雑な医療情報を日常の言葉に置き換える「大衆に仕える人」と呼んだ。

「自分の知識で人を感心させたり、知識をひけらかしたりはしたくない」とファウチは言う。「自分が話していることを理解してもらいたいだけだ」

 そんなファウチは、3つの重要点に絞って話すことがよくある。たとえば、4月5日に報道番組「フェイス・ザ・ネイション」に出演した際には、米国がソーシャル・ディスタンシングの指針を緩和できるのは「検査、隔離、感染者追跡」という3つが可能になったときだと述べた。

 ファウチはまた、国民は次の3つの行動によって、他者との「物理的距離の確保」を続けなければならないと強調した。6フィート(約1.8メートル)離れる、集まりは10人以下にする、レストランやバー、劇場などでの多人数の交流を避ける、というものだ。

 ウイルスと同じように、言葉は伝染する。言葉は恐怖心やパニックを植え付けることも、理解や落ち着きを促すこともできる。何よりも、言葉は行動を引き起こすことができる。だから、言葉は慎重に選ばなければならない。


HBR.org原文:Finding the Right Words in a Crisis, April 17, 2020.


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