テクノロジーを使っているか、使われているか

 フラフラっと気まぐれにどこかに行ってしまい、飼い主をいら立たせたり、心配させたりするネコを思い浮かべて欲しい。飼い主がいくらおいしいご飯を用意して待っていようが、おもちゃを買ってきてご機嫌をとろうが、気まぐれなネコは決して思い通りに行動してはくれない。

 それなのにエサ代や健康管理のために少なくないお金がかかる。やがて、飼い主は思う。「もしかしたら、相性が悪いのだろうか。どうも思い描いていた関係が築けていないな」と。

 ほかのペットに飼い替えようかと思っても、家に居ついてしまったネコを捨てるわけにはいかない。そして、相性が悪く、さして自分に懐いてもいないネコと暮らし続けることになる。

 同じことが企業とテクノロジーの間でも、たびたび起きている。入念に検討し、自社にぴったりなテクノロジーを選んだつもりでも、途中で手に負えなくなったり、思い通りの結果が得られなかったりする。そして、ネコと同じように簡単に乗り替えることはできない。

 近年語られているAI(人工知能)のホラーストーリーのように、テクノロジーが人間の意思とは関係なく勝手に動き出すという話ではなく、それに近い現象が現実として起きているのである。

 我々はテクノロジーを使っているつもりでいて、多くの場合、ことにビジネスにおいては、逆にテクノロジーに使われている。テクノロジーに振り回され、時間を支配され、思考や行動を変えさせられる。人々の生活に利便性や豊かさをもたらすはずのテクノロジーが、犯罪や軍事目的で利用され、我々を脅かすことすらある。

 そうしたテクノロジーのマイナス面を顕在化させないためにも、人間がテクノロジーのグリップをしっかりと握らなければいけない。それができるのは、野良ネコ化したテクノロジーの本来の「飼い主」であるCxO、特にCEOである。そのためには、企業戦略とテクノロジーをきちんと連携させ、しっかりとガバナンスを利かせることだ。

 新型コロナ感染症による世界経済の損失額は500兆円を超えるという試算もある。足元の資金繰りのための資産売却、業績の下方修正、投資の縮小、雇用調整などに追われている企業が多く、景気後退がこの先長く続く可能性がある。

 一方で、新たに生まれるチャンスも少なくないはずだ。現在の状況は、我々にさまざまなシナリオを垣間見せてくれている。例えば、人が移動しなくなり、テレワークが広がった場合の影響は何か。一時的に世界で多くの職が失われる場合に、社会はどう対応すべきなのか。それは将来起こると予想されるAIやロボットによる雇用の減少に関してどのような教訓をもたらすのか。

 あるいは、「ポストコロナ」時代の人々の消費行動はどう変わるのか。各国はどのような金融政策や貧困対策を取るのか。公衆衛生管理のためにテクノロジーを使って市民の行動を把握することに対して、社会はどう反応するのか。そうした状況変化に対して我々が常にセンサーを働かせていれば、重要なヒントはたくさんありそうだ。