現在と未来、あらゆる選択肢に目を向ける

 非生産的な不確実性に襲われると、人は、いま置かれている状況ばかりに気を取られ、幅広い可能性を見逃しがちだ。その結果、不安になるだけでなく、判断を早まったり、チャンスに気づかないためにそれを逸したりする。心理学者は、大局を見ないこの性向を現状維持バイアス小さな池の大きな魚効果相対的剥奪と呼んでいる。

 狭量な発想がいかに判断力を低下させるかをわかりやすく説明していると思うのが、マルコム・グラッドウェルだ。大学生がSTEM(科学、技術、工学、数学)分野を専攻する理由を調べたところ、米国の標準的な大学では、SAT(大学進学適性試験)の成績が自分の高校で上位3分の1に入っていた学生がSTEMを専攻する割合は50%、下位3分の1ではわずか15%だった。

 グラッドウェルはその理由について、下位3分の1の学生は、周りを見て自分がそれほど頭がよくないことに気づき、もっと簡単な学科を専攻することにしたのだろうと考えた。ところが、グラッドウェルが、ハーバード大学の学生を対象にSATの成績とSTEM の専攻の関係を分析したところ、同じ分布が見られたのだ。

 なぜだろうか。それは、人間が全体像に目を向けようとせず、自分が実際に体験したことに基づいて物事を判断するようにできているからだ。点数が低かったハーバードの学生は、もちろんSTEMの分野で活躍できる能力があるにもかかわらず、大局的な見方ができないために、みずからチャンスを捨てていたのだ。それとは反対に、筆者が調査したイノベーターたちは、他の人には想像できなかった「可能性」を探る能力を身につけていた。

 自分に見えていない全体像があることや、自分がイメージするよりずっと多くの可能性があると思い出すことができれば、より最適な結果を見出す確率が高くなる。

 最も重要な点は、その大局観により、非生産的な不確実性による不安を、それに勝る楽観と静観で乗り越えられることだ。それは、不確実性の原因が比較的小さな問題(飛行機に乗り遅れて突然できた時間を、どう過ごそうかと悩むなど)の場合でも、大きな問題(失業してこの先どこへ向かい、何を優先すべきかを見直さなければならないなど)でも変わらない。

 人は最悪の状況にも、素晴らしい機知と、回復の選択肢があることに気づくことができる。