このクラスでは、マインドフルネスの実践と結果を、科学的にどのように調べればいいかを学ぶ。

 その日は、マインドフルネスの神経相関を測定する手段として、fMRI(機能的磁気共鳴画像装置)を使うことのプラス面とマイナス面を探ることになっていた。つまり、瞑想中の脳を観察することは、マインドフルネスに関する正確な情報を集め、まだ科学的に新しい領域であるマインドフルネスの研究を進歩させるうえで有効な方法なのかどうか探ろう、というわけだ。

 学生たちは、2011年に筆者の研究室が発表した、マインドフルネスの効果に関する初期の研究論文をいくつか読んでくること、という宿題を出されていた。だから筆者としては、学生たちが研究論文をきちんと理解できたか聞きたかった。だがその前に、学生たちの不安を落ち着ける必要があった。

 まず、最初の15分間は瞑想をした。これは、この授業で毎回やっていることでもある(マインドフルネスの仕組みを理解するのに、自分がやったことがなければ始まらないだろう)。

 その日は、「慈悲の瞑想」と呼ばれるものを試みた。その目的は、人間が持って生まれた、人を思いやる能力と、人とつながる能力を呼び覚まし、高めることだ。

 筆者の研究室は、長年この種のマインドフルネスを研究してきた。そして、慈悲には、人間が不安になると活発化する脳の領域を落ち着かせる働きがあることがわかった。

 さらに最近の研究では、アプリを使ったシンプルなマインドフルネスの訓練でも、医療従事者の不安を大幅に低下できることがわかった。私たちの研究では、ストレスを抱えた医師の不安(臨床的な測定値に基づく)が、57%も低下した

 これらのアプリは、「いま、この瞬間」に意識を集中する方法を教えてくれるもので、全般性不安障害(GAD)を持つ人の不安も低下させる。私たちのチームは、米国国立衛生研究所(NIH)の委託を受けたランダム化比較試験で、GAD患者の不安レベルが63%も低下したことを発見した。

 したがって慈悲の瞑想は、その朝の授業に出席していた学生たちに、ぴったりの処方薬のように感じられた。

 筆者は学生たちに、目を閉じて、深い呼吸をするよう促した。そして親しい友人やペットを心に思い描き、自然に湧き上がる愛情に没入するよう促した。また、いまこの瞬間に自分をつなぎとめるアンカーとして、シンプルな思いやりのフレーズ(「あなたに幸せが訪れるように」)を心の中で繰り返し唱えてもらった。

 この「家族やペットや恋人を思い浮かべて、彼らの幸せを祈る言葉を自分のペースで繰り返す」という、シンプルな訓練をするだけで、自分の意識をいま、この瞬間につなぎとめることができる。もしまた、ふらふらと他のことを考え始める自分を発見したら、このプロセスを最初から繰り返せばいい。

 瞑想が終わると、学生たちは目に見えてリラックスしていた。それでも、その日のディスカッションに積極的に参加する心構えはできていなかった。

 そこで、学生たちが当初より落ち着き、いまこの瞬間を意識できるようになったと信頼して、筆者はみずからの授業方針を特別に変更して、学生たちにスマホでメールをチェックすることを許可した。彼らの様子から、メールが届いていたことがわかった。皆、スマホの画面に釘付けになっていた。

 そこで、学生の一人にメールを読み上げてもらうことにした。それによると、ブラウンは冬学期の残りをオンライン学習に切り替える。翌週からキャンパスでの授業はなくなり、学生たちはできるだけ早く寮を出て、春休み後はキャンパスに戻って来ないこと――。

 大学側は、4年生と卒業生がキャンパスで卒業式と同窓会を開く可能性を探っているなど、学長がなんとか希望的な余韻を残す努力をしていることが読み取れた。しかし、多くの学生はがっくり肩を落としていた。

 それから15分間は、マインドフルネスの実践(呼吸への気づきや慈悲など)を通じて、社会的伝染の拡散を防ぎ、精神衛生上の健康を維持する方法を話し合った。その内容を授業が終わったらすぐに実践するよう、筆者は学生たちに勧めた。