まず、アジリティには体幹の強さが必要だ。

 ダンサーは腹部と背中の筋肉を鍛えて、回転や跳躍、エクステンション(足を高く上げて保つこと)を支えなければならない。また、体幹の強さは、迅速な動きや、ときには極端な動きのあいだも、安定という視覚的な美しさを演出する。

 経営者にとっても体幹、つまりコアの強さは、アジリティの中核となる。すなわち、自分のコア・バリュー(中核となる価値観)──自分は何のために行動していて、何が自分の人生やビジネスに目的を与えるのか──を理解しなければならない。また、コアの強さは、流行に振り回されないという意味でもある。

 ただし、変化に抵抗する堅さと混同してはならない。むしろ、コアが強いと、バランスが崩れかける脅威に気づき、硬直を回避できる。経営者が自分の目指すべき方向を本当に理解していれば、バランスを失うことを恐れずに、あらゆる範囲の動きを模索できるだろう。

 コアの強さを通じてアジリティを発揮したリーダーの一人が、バーバリーの元CEOで、アップルの小売部門のトップも務めたアンジェラ・アーレンツだ。

 アーレンツは150年の歴史を持つバーバリーのコアであるトレンチコートに注目し、時代遅れになりかけていた会社を復活させた。新しい世代の好みやトレンドを受け入れながらコア・コンピテンシー(中核となる強み)をよみがえらせ、デジタル時代のファッションブランドとして再浮上させたのだ。

 アジリティに必要な2つ目の資質は、焦点を素早く変える敏捷さだ。

 ダンサーは常に、体の片側から反対側へ、片足からもう一方の足へ、つま先からかかとへと体重を移動させる。経営者の場合、A地点からB地点に向かう正しいルートだと思っていたことが、目の前の現実を考えたときに、変わったかもしれないと気づくこと。それが、焦点を変えるということだ。

 このような変化には体幹の強さが必要だが、さらに、自分の動きに自信を持たなければならない。最終的に自分が目指すところはわかっているが、そこにたどり着くためのさまざまな方法を広く受け入れる自信だ。

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