(4)アイデアを共有する仕組みをつくる

 あなたの会社でも、現在の厳しい状況の中で誰かが必要に迫られて、新しいやり方を試みている可能性が高い。想像力豊かな企業は、そのような社内のイノベーションの芽を拾い上げ、ルール化し、全社に広げていく。

 想像力は、個人単位でのみ発揮されるわけではない。新しいアイデアは、多くの人の頭脳の間でやり取りされることにより進化し、拡散していく。

 企業は、そのような「集団的想像力」をはぐくまなくてはならない。その成否を左右するのは、未完成のアイデアを共有しやすくできるかどうかだ。社内の人々が堅苦しくない環境で、肩書や報告、許可、予算などを気にせずにアイデアを話し合える場をつくるべきだ。

 裏を返せば、コミュニケーションが断絶した縦割りの組織をつくり、「賢明なアイデア」と認められない提案をすることへの恐怖心を高めれば、人々の想像力をそぎ、アイデアの拡散を妨げてしまう。「現実的でない」「常識に反する」といった理由で、いくつものアイデアが検討されることすらなく却下されている。

 問題は、まったく利点のないアイデアと、馴染みがなかったり、直感や常識に反していたり、未完成だったりするけれど、価値のあるアイデアを見分けるのが難しいことだ。そうである以上、問題に対する手軽な解決策がない状況では、新しいアイデアの供給源を狭めるよりも広げなくてはならない。

 あらゆる企業は、最初は新興企業として出発した。ところが、成功を収めた企業は、安定的で収益性の高いビジネスの方法論に磨きをかけていて、創業時のアイデアをどのようにして得たかを、すっかり忘れている。そのアイデアは、雑然としたプロセスを通じて、想像力を発揮することによって得られたはずだ。

 いまは、前例のある方法論だけを実践していればよい時期ではない。過去に前例がない大激変に見舞われている今日、必要とされているのは起業家精神と創造性である。

(5)変則的で予想外のものに目を向ける

 人の想像力が触発されるのは、思いがけないものに触れたときだ。

 人間の精神は、物事にパターンを見出そうとする性質がある。そして、既存のパターンに適合しないものに接すると、人はみずからのメンタルモデルを修正する。そうすることで、新しい戦略や行動パターンを受け入れることができるのだ。

 新しい困難な問題に直面しているときは、外へ目を向けよう。不慮の事態や変則的な出来事、特殊な現象について検討し、「既存のパターンに当てはまらない点は何か」と考えてみるとよい。この問いの答えを掘り下げて考えると、物の考え方が変わり、物事を再考して、新しい可能性を見出せる。

 現在の危機では、たとえば以下のような問いが浮かび上がるかもしれない。

 どうして、日本、中国、韓国など、一部の国では、感染の指数関数的拡大が起きていないのか。都市によって打撃の大きさが異なるのは、どうしてなのか。どうして、同様の戦略を採用しているように見える国や地域で、異なる結果が生じているのか。どうして人類は、MERS(中東呼吸器症候群)、SARS(重症急性呼吸器症候群)、エボラ出血熱など、手ごわい感染症の数々を経験してきたにもかかわらず、今回の危機への準備ができていなかったのか。

(6)実験を奨励する

 危機の際はどうしても時間や予算などの資源が逼迫するが、それでも実験を奨励することを忘れてはならない。たとえわずかな予算しか割けないとしても、実験しよう。

 自然界のシステムが最も強力なレジリエンス(再起力)を発揮するのは、多様性があるときだ。そうした多様性は、新しい方法で新しいことを試みることによって生まれる。

 アイデアは、実験という形で、実世界で検証されてはじめて有用なものに進化する。そうした実験で予想外の結果が生まれることにより、それに触発されて新たな思考が行われたり、新しいアイデアが生まれたりするのだ。

 たとえば、レゴ・ブランドの創業者であるオーレ・キアク・クリスチャンセンはもともと、木製のはしごやアイロン台などの家庭用品をつくるビジネスを行っていた。しかし、1930年代の深刻な世界恐慌により、新しいことを実験せざるをえなくなり、木製玩具の製造を試した。玩具づくりへの進出は、人々が住宅建設に消極的になっていた時期に大成功を収めた。

 その後、国際的な玩具市場を分析し、クリスチャンセンは再び実験を行った。当時は木製玩具が中心だったが、まったく新しい材料、すなわちプラスチック製の玩具を世に送り出したのだ。第二次世界大戦直後の厳しい時期だったにもかかわらず、1年分の利益をすべて新しい機械や道具への投資に回した。

 最初は昔ながらの玩具をつくっていたが、やがて積木ブロックをつくり始めた。今日のような互いに結合させて遊ぶレゴ・ブロックが生まれたのは、1958年のことだ。その後まもなく、同社は木製玩具やその他の製品の製造をすべて打ち切り、現在に至る「ブリック・トイ・ビルディング・システム(「レゴ・システム・イン・プレイ」)に事業を集中させた。

(7)希望を捨てない

 想像力は、よりよい世界をつくりたいという欲求や苦悩によりはぐくまれる。希望をなくして、受動的な考え方に陥った人は、理想を実現したり、問題を修正したりすることが可能だと思えなくなる。

 統計学のベイズ学習では、統計的分布に関する仮説(「事前分布」)を設定し、新しい情報が手に入るたびに、その情報に照らして仮説を修正していく。最終的な結果は、最初にどのような考え方を抱くかに大きく左右される可能性がある。悲観主義を抱くと、その考え方の通りに好ましくない結果を招きかねない。

 リーダーは、いま自分に問いかけるべきだ。あなたは、メンバーが希望を抱き、想像力を発揮し、イノベーションを目指す理由を与えられているだろうか。悲観的な言葉や運命論的な言葉を使ってはいないか。

 その種の言葉は、社内の創造性を歯止めなく低下させかねない。目の前にある実際のリスクに対処するためには、想像力を発揮することに伴うリスクを受け入れなくてはならない。そして、想像する力を持つためには希望が不可欠だ。

「私たちの生涯を通じ、近い未来がどのようになるかを左右する要因として、想像力の重要性がいまほど高かった時期はなかった」と、工具メーカー、スタンレー・ブラック&デッカーCEOのジム・ローリーは私たちに語っている。「この過酷な時期に、リーダーは機会を逃さずにメンバーの想像力をかき立て、それをうまく活用しなくてはならない」

 あらゆる危機の中に、チャンスの種がある。いま苦しんでいる多くの企業は、想像力を失わず、それをうまく活用できれば、危機の中で、そして危機の後に、再生を果たせるだろう。

 危機に直面しているときに想像力を発揮するなんて、軽薄で贅沢なことだと思えるかもしれない。しかし、それは未来に成功するために欠かせない要素なのだ。


HBR.org原文:We Need Imagination Now More Than Ever, April 10, 2020.


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