デジタル・インフラストラクチャー

 韓国が新型コロナウイルス感染症問題に熱心に取り組んだのは、近年における感染症対応の経験があったからだと思われる。

 2015年には中東呼吸器症候群(MERS)が広がり、186人の感染者と36人の死者を出した。政府が新型コロナウイルス感染症に関するデータ共有に熱心なのは、不可解とされる措置によってMERSへの対応を台無しにした反省によるのだろう、とする見方もある。

 1000人を対象とした韓国での調査によると、新型コロナウイルス感染者の詳細な移動歴を公表する政府の姿勢を、大半の人が支持していた。しかも、「個人の権利よりも公益のほうが重要だ」とする回答が大多数を占めたという。

 台湾もまた、2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の流行により大きな打撃を受けた。その後、危機管理体制を構築して、テクノロジーと組織の両面で新型コロナへの迅速な対応を実現した。感染者の過去14日間の移動歴と本人確認データを関係当局が1日で取りまとめる仕組みができ、モバイル技術による継続的な追跡が容易になった。

 さらに、入国者を対象とした検疫制度を設けた。旅行者にショートメッセージ(SMS)で健康状況の申告フォームを送り、入国手続きを迅速化するとともに、すべての病院、クリニック、薬局が患者の渡航歴をすみやかに入手できるようにした。

 感染症への対応は、タイミングがすべてである。韓国と台湾の経験からは、危機対応インフラをいつでも稼働できる状態にしておき、それによって時間を稼ぐことが、感染状況を制御するうえできわめて重要だと判明している。

 同じ教訓は、中国の新型コロナウイルス感染症への対応からも引き出せる。

 もっとも中国の場合は、既存の感染症管理体制を活かしたというより、『エコノミスト』誌が報じるように、広範囲に及ぶデジタル監視システムを新型コロナウイルス感染症関連の追跡に転用したのである。

 これによって中国の指導部は、「大多数の市民には平常通りの暮らしに戻ることを認めつつ、感染が疑われる人々への監視を続ける」という、「より誂え向きの」方法を実現できた。

 本稿の共著者であるヤーシャンとメイチェンが、MIT未来の仕事に関するタスクフォースと共同で実施した研究からは、中国における既存デジタル技術の新型コロナ対策への転用は、接触・感染者の追跡だけにとどまらないことが判明している。

 たとえば顔認識技術で知られる中国のハイテク企業センスタイムとメグビーは、人工知能(AI)を用いた非接触検温ソフトウェアを開発、展開してきた。

 センスタイムは「スマートAI防疫ソリューション」も開発、展開している。これはAIアルゴリズムと赤外線サーマル技術を組み合わせて、0.3度以内の誤差で熱を検知するとともに、マスクをしていない人を99%超の精度で識別するものだ。

 このような顔認識を含む非接触検知がこれほどまでに成熟してきた背景には、中国政府による熱心な支援と要望がある。