●認知バイアスを認識すべき

 イタリアでは最初のうち、新型コロナウイルス問題は「危機」と考えられていなかった。破滅的な事態を予測していた科学者もいたにもかかわらず、最初に非常事態が宣言されたとき、国民や多くの政治関係者は懐疑的な目で見ていた。

 2月下旬には、著名な政治家数人が北部の大都市ミラノで多くの市民と握手を交わし、ウイルスが原因のパニックによって経済を停止させてはならないと呼び掛けたこともあった(1週間後、その政治家の1人の感染が明らかになった)。

 同じような反応は、ほかの多くの国でも見られた。これは、行動科学者が「確証バイアス」と呼ぶ現象の典型だ。確証バイアスとは、人が持論を裏づける情報にばかり飛びつく傾向のことである。

 感染症の流行のように、最初は小規模に始まり、指数関数的に拡大する「非線形」の脅威に対応することは、とりわけ難しい。新しい情報をリアルタイムで、素早く解釈しなくてはならないからだ。

 強力な対策は、まだ脅威が小さく見える段階、もしくは脅威が発生する前の段階に講じたとき、最も大きな効果を持つ。問題は、そうした措置が功を奏した場合、あとで振り返って評価すると、強力な措置が過剰反応だったかのように見えてしまうことだ。政治家は、このような状況をたいてい避けたがる。

 リーダーは、というより人は誰でも、複雑で深刻な状況に置かれて、手軽な解決策が見当たらないとき、正しい対処法を見出すことが難しい。その大きな理由は、専門家の意見に耳を傾けようとしないことにある。

 リーダーは概して行動への欲求が強いので、自分の直感や側近の意見にだけを頼りに、何らかの行動に突き進みがちだ。しかし、不確実性の高い状況では、その誘惑を振り払わなくてはならない。時間をかけて、さまざまな分野の専門知識を見つけ出し、それをつなぎ合わせて吸収する必要がある。