人の最も無防備で傷つきやすい未熟な部分は、「圧倒された自分」だ。人には、より有能な「大人の自分」もいる。愛情深い親が怯えた子どもにするように、この自分は、「圧倒された自分」を落ち着かせ、安心させる。ただ残念なことに、強い脅威を感じたときには、「サバイバルモードの自分」が反射的、衝動的、無計画に防御に駆けつけ、これが逆効果に働くことが多い。

 この「3人の自分」モデルは、トラウマが身体と神経系に与える影響に関する研究、特に心理学者ピーター・ラヴィーンによって開発された「ソマティック・エクスペリエンシング療法」に基づいて構築した。

 サバイバルモードでは、脅威に対する視野が狭まり、前頭前皮質が徐々に休止状態に移行する。熟考が反射に取って替わられるのだ。脅威は、注意を喚起することはできるが、可変的条件が複数あるような複雑な問題の解決には、最高度の認知資源の動員が必要になる。

 人は、気づいていないことを変えることはできない。そこで、その瞬間ごとに自分が感じていることを意識するのが最初のステップとなる。つまり、感情によって動かされるのではなく、感情を観察する余裕を養うのだ。感情に名前をつけるだけで、特にネガティブな強い感情と距離を置くことができるようになる。

 次のステップは、周囲で何が起こっているかにかかわらず、自分を落ち着かせること。そのために単純だが効果的なのは、呼吸法だ。

 3つ数えながら鼻から息を吸い、6つ数えながら口から息を吐くと、最も有害なストレスホルモンであるコルチゾールの血中濃度をわずか1分で低下させることができる。

 運動も効果がある。挙手跳躍運動(気をつけの姿勢から垂直にジャンプし、着地と同時に脚を広げ、両手を広げて頭上で合わせる)や階段の上り下りは、素早く確実にストレスを解消し、心身を静める。

 落ち着きを取り戻し、深く考えられるようになったと感じたら、「大人の自分」に踏み込む段階だ。共感力のある、この強い自分になりきると、「圧倒された自分」を労わることができる。

 この自分に「困難なときだから、いま感じているように気持ちになるのは当たり前だ」「この感情は永遠に続くわけじゃない」「気分はよくできる。手伝ってあげよう」と話しかける。

 最も重要なことは、さまざまな自分を見分けることである。そうすることで、「サバイバルモードの自分」から二重に打撃を与えられるのではなく、「大人の自分」の強さを呼び覚ますことができる。

「大人の自分」を取り戻すと、覆い被さるような不安と恐怖の感覚から、自分の最も弱い部分を抑えられる、落ち着いた場所へと移動できるため、圧倒されたように感じることがなくなる。

 だが、ほとんどの人はそうする代わりに、本能的に確証バイアスに陥る。自分の最も恐れていることを裏付ける証拠を見つけようとし、それ以外のものを無視しようとするのだ。衝動的かつ防御的に反応することで状況を悪化させ、選択肢を狭め、他の選択肢を払いのける。

「大人の自分」が主導権を握れば、一歩下がって視野を広げることもできる。

 自分に言い聞かせていたストーリーと、その状況における事実とを区別できるようになる。客観的に確認できるもの、議論の余地のないものが事実なのだ。ストーリーは事実を理解するために自分でつくり上げたものであり、事実でない場合がある。

 この区別が付いたら、次の簡単な質問をすることが役に立つ。「ほかにはどんな事実があるだろうか」。 新型コロナウイルス感染症の危機を大惨事として悲観するのではなく、「大人の自分」という内なる影響力に意識を集中させ、残りの自分を手放そう。


HBR.org原文:Coping with Fatigue, Fear, and Panic During a Crisis, March 23, 2020.


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