アンダーグラウンド・レストランを経営する経験など、食にこだわるフード業界限定の成果だと思うかもしれないが、パートタイムの起業家精神という点では、どの業界にも共通している。本業を続けながら副業を始めることで、起業家ライフを味わってみるという人が増えている。

 仕事と楽しみの境界線がはっきりしなくなるにつれ、パートタイムでの起業は、好きなことを利益の出るビジネスへと変えたいと思っている人にとって、きわめて魅力的な道である。とりわけオンライン・プラットフォームは、パートタイム起業家の増加を促してきた。

 オンライン小売業のエッツィー(Etsy)の人気ぶりを例に見てみよう。

 エッツィーは、手芸や工芸を趣味でたしなむ人や職人技術を有する起業家にDIY(自作)を披露する世界を提供している。同様に、ブログやユーチューブ、ティックトックのような動画プラットフォームを使って、アーティスティックな映像作家たちは自宅のリビングから視聴者に直接アプローチできる。テクノロジーの進化により、かつてないほど「好きなこと」をやるのが容易になりつつある。

 まさにこの「自分の情熱に従う」を合言葉に、パートタイムで週末にアンダーグラウンド・レストランを営むシェフたちが出現した。こうしたシェフたちは、パートタイムの仕事を「好きだからやる」と表現することが多い。情熱から生じたプロジェクトであり、趣味の料理を実験する方法の一つなのだ。

 アマチュアシェフたちには当初、このベンチャーを育てていく計画など、ほぼなかった。最終的にプロのシェフになり、レストランを構えることを望んでいると言った人も皆無に等しかった。

 ところが、顧客やメディアから称賛されるにつれて、彼らの自己認識は変わり始めた。正式にレストランを開く案が現実味を帯びるようになったのだ。

 このプロセスに、かなり長い時間かかった人々もいる。なかには、7年を要した人もいた。

 パートタイムの起業家だからこそ、彼らは念願のオーナーシェフという仕事を安全に、ゆっくりと試してみる機会を得ることができた。機が熟したと感じたときに、シェフたちは次の段階に進むことができたのだ。時間をかけて築き上げた熱心な顧客グループのサポートと、場合によっては投資の申し出のおかげで。

 ひとたびフルタイムの仕事に転換すると、彼らの自己認識は、我々が最初から予想していたものへと変わった。彼らはもはや趣味でやっているとは思わず、みずからを起業家だと考えるようになったのである。