読者の皆さんは、いかがだろうか。私の場合、子を持つ親、そして著述家および講演家として、上記の見解には痛いほど思い当たる節がある。

 だが、この本能的な「ネガティブ・バイアス」は、リーダー、同僚、変革の推進者としての役割に対しても、きわめて大きな影響をもたらすものである。

 第1に、このバイアスは次の疑問に対する説明となる。新しい何かを試みることのリスクは、過去の成功に固執することの代償よりもはるかに少ない――これは多くのエビデンスで示されているにもかかわらず、なぜ多くの組織は変革に及び腰のままなのか、という問題だ。

 ティアニーとバウマイスターによれば、あまりに多くの人が「安全中毒」に陥っているという。「人はネガティブな物事に多大な注意を向ける。それらを思い出し、想像し、避けようとする。自分の生活・人生を恐れに支配されるがままにし、非合理なまでに用心深い」のだ。

 このようなメンタリティを、社会科学の用語で損失回避という。ほとんどの人は、勝つための行動よりも負けないための行動を取りたがる。成功の喜びよりも、敗北の痛みのほうがはるかに強烈だからである。

 しかし、自社を勝たせたいリーダーにとって――変化が急速で競争が激しい環境では特に――自組織を安全中毒のまま甘んじさせることは、敗北へと導く最たるやり方だ。

 私の経験によれば、最高のリーダーは、伝説的なリーダーシップ研究者のジョン・ガードナーが述べた「現実的な楽観主義」――すなわち情熱、ときめき、気概を組織に吹き込む。「未来は、未来を信じない者たちによってつくられることは、まずない」と彼は主張した。優れたリーダーは、未来に対する従業員の高揚感を喚起し続け、安全中毒を断ち切るのだ。

 第2に、次の疑問もネガティブの影響力によって説明できる。イノベーションを長期にわたって維持するのは――たとえ物事が基本的には順調に進んでいる場合でも――なぜこれほど難しいのか、である。プロジェクトで予算をオーバーしたり、製品が当初の見込みほど成果を上げなかったりといった、1つの小さな失敗でも、従業員の意欲に及ぼす影響は大きく、他のあらゆる成果を霞ませてしまうのである。

 ティアニーとバウマイスターは、これを「4の法則」と呼ぶ。「1つのネガティブなことを克服するためには、4つのポジティブなことが必要となる」という。

 私の経験によれば、最高のリーダーは、従業員の進捗を本人たちに告げて自覚させ、小さな進捗をなるべく頻繁かつ明白な形で称賛することに尽力する。スタートアップの間で、新規顧客を獲得するたびにベルを(最近ではゴングかもしれない)打ち鳴らして祝ったり、「今週のよいニュース」を祝う会を毎週金曜日に開いたりする会社が多いのには、理由があるわけだ。

 新会社の立ち上げや、既存企業での変革など何においても、ビジネスで日々経験する物事の多くは、失望を伴うものだ。顧客を取り逃がすことや、話し合いで合意に至らないこともある。「4の法則」とはつまり、リーダーは悪い出来事を克服するために、よい出来事をあえて(場合によっては過剰に)強調すべきということだ。

 ネガティブの影響力と変革の難しさを関連づける第3の要因は、戦略よりも個々人に関するものだ。

 広く支持を得ていた変革の取り組みが、社内で少数の不協和な声――声高な懐疑論者や、骨の髄までの伝統主義者など――によって、どれほど遅延や停滞に追い込まれるか。私はこのことに、いつも驚かされている。結局、オズモンズの「ワン・バッド・アップル」の歌詞とは違って、1つの「腐ったリンゴ」がすべてのリンゴを台無しにすることは実際にあるのだ。

 ゆえにリーダーは、ティアニーとバウマイスターが挙げる3種類の腐ったリンゴを、早急に自組織から取り除く必要がある。ろくでなし(jerk:対人逸脱行為者)、怠け者(slacker:努力の出し惜しみをする人)、悲観者(downer:感情的にネガティブな人)である。

「社会的支援」、つまり友人や同僚や隣人からの励ましは、プラスの影響を及ぼすことが研究で立証されている。そして「社会的陰謀」――噂や陰口、恨みなどによって人を貶める行為――がもたらすマイナスの影響も立証されている。そして意外ではないが、「社会的支援よりも、社会的陰謀のほうが大きな影響を及ぼすことが判明している」という。

 したがって、優れたアイデアと善意を持ったリーダーでも、自組織の腐ったリンゴに対処する準備ができていなければ成功しないのだ。

 結局のところ、ネガティブな出来事によって会社やチームに悪影響が及ぶ事態は、幸いにも避けることができる。だがそのためには、経営幹部や起業家、変革の推進者を含めすべてのリーダーは、巧みに設計された戦略とともに、健全なメンタリティを組織に注入しなければならない。

 ビジネスでも人生でも同様に、ネガティブの影響力を克服しなければ、ポジティブなことにたどり着くのは難しいのだ。


HBR.org原文:Don't Let Negativity Sink Your Organization, February 17, 2020.


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