●経済の正規化と税制改革

 廃貨後、口座の認証を行うためには各人固有のIDの提出が義務となった。これに伴い、銀行口座の不正利用と匿名性が減っている。

 個人口座であれ法人口座であれ、資金の流れがこうして追跡可能になったことで、インド政府は、活動がほとんどないのに多くの資金が流れているペーパーカンパニーを22万5000以上も特定した。これらの会社は金を頻繁に不正流用して納税義務を回避していた。

 デジタル経済から生まれるデータは、個人への課税にも影響を及ぼしている。財政の安定度を示す指標として、所得税の弾性値(buoyancy)がある。GDPの変化に応じた所得税の変化で算出されるこの数値は、過去10年で最高の2.20を記録した。これは、税金を支払っている国民の数が増えていることを意味する。所得税の基盤がこれまで1桁台前半のパーセンテージであったこの国にとって、デジタル化は、税制順守をめぐる長期的かつ体系的な問題を解決する端緒となっている。

 廃貨は、全国一律の物品サービス税(GST)を導入(2017年7月に開始)する契機にもなった。その際、貿易および国内ビジネスの妨げとなっていた17以上の国税と州税が廃止され、全国一律の税制に置き替えられた。GST導入初期には、過度の複雑さや実施上の諸々の難題によって円滑に進まなかったとはいえ、新制度は急速かつ広範に普及している。本稿執筆時点でGSTに登録した事業者は1200万以上に達している

 GSTの導入で最も恩恵を受けているのは、中小事業者である。自社の事業を正規化することでメリットを得ているのだ。

 正規経済への参入による最大のメリットは、「仕入税額控除(input tax credit)」を活用できることだ。これは事業者が、売上げに課される税(output tax)から、製品を仕入れる段階ですでに支払った税を相殺でき、全体の税負担を減らすことができる制度である。

 またGSTに登録した事業者は、公営銀行に最大15万ドルの融資を申請できる。税金請求書と銀行取引明細書を提出すれば、1時間以内で申請が通る。