●最新情報を収集する

 まず、その病気について公衆衛生上のガイダンスをもたらしてくれる、権威ある情報源を見つけるとともに、地域当局が推奨または義務づける措置の最新情報を入手すること。「権威ある情報源」としては、米疾病対策センター(CDC)世界保健機関(WHO)欧州疾病予防管理センター、そして各国の公衆衛生ガイダンス(たとえばシンガポール英国のもの)があるだろう。

 こうした公的ガイダンスは、企業が健康リスクや法的リスクを縮小するための決定を下す際の基礎となるはずだ。会社のポリシーが公的勧告に沿ったものであることを立証できれば、自社の感染対策が問題になったときに、法的に重要な防御となる可能性がある。

 ●コミュニケーションと衛生対策を強化する

 法的にも実務的にも、企業は、感染拡大防止策について従業員に正確な情報を提供したこと、そして、その情報に基づき各自が行動を取る手段を提供したことを立証できる必要がある。したがってオフィスで感染が起こる前に、具体的な公衆衛生ガイダンスを従業員と共有するとともに、その根拠となる公的情報源を従業員に知らせて、社内で感染の態様と症状に関する教育を図るべきだ。

 さらに、オフィスにおける感染リスクを低減する措置も取る必要がある。たとえば公衆衛生ガイダンスには、感染防止策として、従業員が手を洗える設備や殺菌剤に容易にアクセスできるようにすることや、カウンターやドアノブ、エレベーターのボタンなど、不特定多数の人が触る場所を定期的に消毒することが記載されている。

 また、オフィス内の人口密度を下げるために、リモートワークやシフト制を推進したり、オフィスのレイアウトを変更したりといった措置も検討できるだろう。これらの措置は、従業員の感染防止と同時に、企業を法的責任から守る助けになるはずだ。

 ウイルスにさらされた従業員や、感染の兆候が見られる従業員、あるいは自分または家族の免疫システムの低下など、強化された感染対策を必要とする従業員については、こうした事実を会社に報告することを義務づけるべきだ。感染の兆候がある従業員は、帰宅または自宅待機とすべきであり、ウイルスにさらされた訪問者や感染の兆候がある訪問者は、オフィスへの出入りを禁じるべきである。

 こうした指示を与えなかった場合に、従業員がオフィスで感染して、経営陣が会社のポリシーを周知していなかったことが立証されれば、その会社は法的責任を問われる可能性がある(障害者差別禁止法は、従業員が健康状態を秘密にする権利を認めているが、周囲の健康や安全に直接的な脅威を与える場合、この権利は制限されるのが一般的だ)。

 ●職場復帰に制限を設けることを検討する

 人種や国籍に基づき従業員に出社制限を課すことは、差別の訴えを起こされるリスクがあるが、他人の健康または安全に直接的な脅威を与える場合は、合理的かつ事実に基づく制限を課すことができる。

 事業者は、公的ガイドラインに基づき、または医療コンサルタントの助言に基づき、病気またはウイルスにさらされた可能性のある従業員が、安全に職場に復帰できる時期を決定することができる。潜在的に感染を引き起こす状況にある従業員が、いつ職場復帰を許されるかは、会社のポリシーとして書面に明記されるべきであり、関連するやり取りも記録として書面に残すべきだろう。

 ●事業主の注意義務を怠らない

 ほとんどの国には、勤務時間中に怪我や病気をした場合、従業員を保護するための法律がある。多国籍企業や、頻繁に出張する従業員を抱える企業にとって、各国の適用法を把握することが重要だ(1つ以上の国や州の法律が適用されるケースもあるかもしれない)。単一のルールが、どこにでも適用されるわけではないのだ。

 米国では、従業員は労働安全衛生法(OSH法)により保護される。OSH法5条(a)(1)は、一般義務条項となっており、事業者は「死または重大な身体的危害を引き起こす恐れがある……と認識される危険のない」職場を従業員に提供しなければならないと定めている。

 同法の管轄当局である連邦労働安全衛生局(OSHA)は、認識される危険が存在するにもかかわらず、事業者がその危険を防止または減じるために合理的な措置をとっていない場合、その事業者に一般義務条項違反を通知する場合がある。ただしOSHAの違反通知は、基準や規則、一般義務条項への違反に限られる。

 州が義務づける従業員補償制度と、連邦職員の補償制度では、勤務時間中に傷病(定義は州により異なる)を被った職員は補償を受けることができる。ただし一般に、雇用期間中に危害を被った場合の補償は、所定の労働者補償に限定され、心身の苦痛について賠償を受けることはできない。

 なかには、傷病が事業者の「故意」または「意図的」行為の結果である場合、追加的な補償を認めている州もある。これには、事業者が適切な保護措置を講じなかった場合が含まれるかもしれない。

 企業は、顧客など第三者への法的責任も考慮に入れる必要がある。この場合、あまり責任の限定は見込めないかもしれない。たとえば、飲食店の従業員が職場でウイルスに感染した場合、事業者は従業員補償を負担するだけで済むかもしれないが、彼らが顧客に感染させた場合、理論的には、巨額の損害賠償を請求される恐れがある。