では、フェイスブックの監視委員会が信頼を得るためには、何が必要なのか。

 細則には一つの可能性が示されている。監視委員会は、「関連する人権原則を指針」として、「その事案に関係する国際的な人権を、委員会がどのように検討し、追跡したかに関する分析」を示す、と定められているのだ。この文言には不透明な部分もあるが、委員会が国際的な人権原則に基づき決定を下すなら、幅広いユーザーに対して正当性を確保できるだろう。

 ただ、現在の細則は、監視委員会の任務を「表現の自由」を守ることに限定している。フェイスブックは、表現の自由保護を企業目標にしており、ザッカーバーグ自身、2019年10月にジョージタウン大学で行ったスピーチで、それを強調している。

 しかし、フェイスブックが監視委員会の人権面のアセスメントを依頼した非営利団体ビジネス・フォー・ソーシャル・リスポンシビリティ(BSR)は、「コンテンツに関する処分は、表現の自由と個人の安全だけでなく、すべての人権に影響を与える可能性がある」とし、フェイスブックが本気で人権保護に取り組むつもりであるなら、言論や表現の自由だけを選ぶのは十分ではないとの見方を示した。

 監視委員会と、今後就任する委員長は、委員会の判断が、集会の自由や投票の自由といった人権にも影響を与えうることを理解する必要がある。こうした権利は、フェイスブックが定義するものではなく、国連人権宣言や国際条約、人権裁判所が定義するものだ。

 監視委員会のメンバー(今後数ヵ月で発表される)は、細則を改正する権限を行使して、幅広い人権法に基づく事案について判断を下せるようになるべきだ。それは簡単ではないだろう。自国の法律では自分の権利が保護されないユーザーに、普遍的な人権原則を適用するという、難しい立場に置かれる可能性もある。

 たとえばミャンマー政府が、あるユーザーの投稿を削除すべきだと判断したものの、監視委員会がそれを却下したらどうなるのか。細則には、フェイスブックは「(各国の)法律に違反する可能性のある」決定は実行しないとあるが、人権を無視する国内法を黙認するだけなら、監視委員会の信頼は失墜するだろう。

 その一方、既存の人権原則が、デジタルコンテンツや人工知能(AI)が関連する新しい問題については、必ずしも明確な答えを示してくれない場合も考えられる。それでも、もし監視委員会がすべての人権を保護することに決めれば、その見解は、同じような課題に取り組む多くの団体の助けになるだろう。

「フェイスブックの最高裁判所」というコンセプトを発案し、ザッカーバーグに助言したハーバード・ロースクールのノア・フェルドマン教授は、いつかほかのテクノロジー企業も、みずからが直面した問題について、フェイスブックの監視委員会の判断を仰ぐようになるかもしれないと語っている(その判断に従うことが条件になるが)。

 一方、監視委員会が取り扱う範囲を制限すれば、より大きな問題を見落とすことになる。アムネスティ・インターナショナルは最近の報告書で、フェイスブックの幅広いサーベイランス活動は「人権に大きな脅威を与えている」と指摘している。

 報告書の執筆者の一人であるジョー・ウェストビーは、「フェイスブックの根本的なビジネスモデルに疑問を呈さない限り、コンテンツポリシーはフェイスブックにとって都合がいいものにすぎない」と語る。また、独自の監視委員会を設置しても、「国の強力な監視や規制の代わりにはなりえない」と言う。

 監視委員会は、フェイスブックのポリシーについても勧告を行う権限を与えられるべきだ。とりわけ、フェイスブックの収益構造やニュースフィードのアルゴリズムなど、ビジネスモデルに直接切り込む勧告が期待される。

 監視委員会に期待されることは大きい。セント・ジョーンズ大学とイェール・ロースクールの法学者ケイト・クロニックは、「15年以上にわたり、ユーザーがフェイスブックの処分に異議を唱えたり、ルールに意見したりする方法はほとんどなかった」と語る。「監視委員会の設置は重要な一歩だが、小さな一歩にすぎない」。監視委員会がうまく機能しなかった場合、フェイスブックを規制するという極めて難しいタスクは、議会に託されることになる。


HBR.org原文:Can Facebook's Oversight Board Win People's Trust? January 29, 2020.


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