(7)以下の7項目について思慮深い対応をする

 ●コミュニケーション

 従業員は相反するさまざまな情報に接して、「何が最善の行動なのだろう」と不安や混乱に陥るだろう。方針は速やかに、明快かつ公平に伝達しよう。さらには、従業員が理解を深めて予想外の状況(特定地域における休業や外注先への対応など)に率先して対応できるよう、方針の背景や根拠を伝えることだ。

 ●従業員のニーズ

 出張や集会を制限すると、教育、医療、日々の食糧などへのニーズが喚起される。この状況を想定して解決策を立て、従業員向けに必要な内容すべてを網羅した情報ハブを設けるべきである。ニーズの多くは各地域に固有のものと考えられるため、地域別の方針策定が求められる。

 ●出張

 出張を認める条件(行先や用件)と承認権者、方針見直し時期を明確にする。

 ●リモートワーク

 方針、すなわち適用条件、具体的な形態、条件見直しの時期を明示する。中国のように在宅勤務が一般的ではない国や地域では、補足説明が求められることを念頭に置いておくべきである。

 ●サプライチェーンの安定化

 安全在庫を活用する、代替の取引先を探す、サプライヤーと協力してボトルネックを解消するなどの方法により、サプライチェーンの安定化を図る。速やかな解決が不可能であるなら、プランの共同策定、暫定措置の導入、すべての利害関係者へのプラン説明を実施する。

 ●業績の把握と予測

 危機は予測不能な業績変動につながる恐れが大きい。業績報告の頻度を高めて、事業への影響、軽減措置の必要な分野、業務オペレーションの回復スピードを把握しなくてはならない。危機的状況だからといって業績管理を疎かにしてよい道理はなく、市場は早晩、どの企業が最も危機対応に秀でていたかを見極めるだろう。

 ●より広範な問題解決への寄与

 企業市民としてサプライチェーンの関係者、業界、地域社会、地元政府を支援するのが望ましい。医療、コミュニケーション、食糧などの領域で自社がどう貢献できるかを考えよう。深刻な社会ニーズと自社特有のケイパビリティが交差する領域に重点を置くとよい。すなわち、企業理念に従うのである。

(8)レジリエンス原則に沿って方針を策定する

 効率は意外性の低い、安定した状況で発揮される。これは得てして、大企業において一般的な状況である。しかし、動態的な課題に対処するカギはレジリエンスにある。

 レジリエンスとは、変化が激しく先を見通せないうえ、幸先の悪そうな出来事を耐え抜き、成功を手にする能力を意味する。調査の結果、レジリエンスを備えたシステムは一般に以下の6つの特徴を持つことがわかった。危機対応に際しては、これらを考慮すべきである。

 ●冗長性

 製造能力を拡充できれば、サプライチェーンの混乱緩和に役立つだろう。短期的には非常手段を探す必要に迫られるかもしれないが、長期的には冗長性を組み込むことができるはずである。

 ●多様性

 受注から配送にいたる業務全般に関して、いくつもの手法を用意しておくと、平時は非効率かもしれないが、危機的な状況下では融通が利き耐性を発揮できる。

 同様に、多様なアイデアは解決策を考えるうえで大いに役立ち得る。さまざまな認識や知識を持つ人材を集めて危機管理チームを結成すれば、いくつもの解決案が生まれるだろう。多様な意見の表明やその尊重を奨励する企業文化の下では、なおさら効果が高いはずである。

 危機について「財務に特化した問題だ」「物流にしか関係しない」というような一面的な見方に陥り、それに沿って危機対応チームの人員構成を決めることがないよう、留意すべきだ。

 ●モジュール性

 統合度の高いシステムは効率的かもしれないが、仮に動揺した場合は、とめどない連鎖反応やシステム全体の崩壊に対して脆弱である。それに引き換え、工場、組織ユニット、納入業者をさまざまに組み替えることのできるモジュール型システムは、大きなレジリエンスを発揮する。

 トヨタ自動車は数年前、ブレーキバルブの主力供給元の工場が全焼する事態に直面したが、供給はわずか数日で復旧した。代替生産体制を構築し、たとえ大きく異なる部品であっても、他の取引先が生産を肩代わりできるようにしてあったからである。

 自社がモジュール性を発揮して機動的に供給体制を切り替えられるかどうか、短期と長期、両方の観点から考えてみるとよい。

 ●進化性

 システム構築には、(1)最適化と最大効率を目指す、(2)新たな機会、課題、情報に応じて絶えず改善を図る進化性を重視するという、2つのやり方がある。新型コロナのような動的な危機への対応でカギを握るのは、進化性である。

 実績のある解は存在せず、解と称するものはいずれも誤りであるか、時とともに陳腐化する可能性が高い。ただし、試行錯誤を通して学習を積み重ね、より有効な解決策を見出すことはできる。

 多くの教訓が得られるのは事後になってからだろうが、当面のところは新たな施策を打ってどれが効果を発揮するかを注意深く見守り、結果をもとに態勢を立て直すのが、最も有効な戦略だと考えられる。

 ●慎重さ

 今後の成り行きや、それが新型コロナ問題に及ぼす影響は予測不能だが、起きうる悲観的なシナリオを想定し、その状況下でレジリエンスを発揮できるかどうかを検証することはできる。たとえば、グローバル規模の大流行、複数の地域における感染、流行の迅速な抑え込みといったシナリオである。

 目下のところ焦点は、中国国内での流行の封じ込めから他国における新たな流行の防止へと移り、極めて不確実性の高い変曲点に達したといえる。最悪のシナリオを洗い直し、その各々について危機対応戦略を立てるのが賢明だろう。

 ●社会に深く根差す

 企業は大きな産業、経済、社会システムの利害関係者だが、これらシステムもまた強い重圧下にある。サプライチェーンやエコシステムを全体として俯瞰できない企業は、限られた影響力しか持たないだろう。

 他者の利益を無視して個別企業のみに寄与するような解決策は、不信を生み、長期的には事業にダメージを与えると考えられる。対照的に、逆境下で顧客、提携先、医療体制、社会システムを支援すると、長期的な信用や信頼を手にする可能性がある。

 緊迫した経済状況に対処するカギは、自社の理念を最も忘れやすい時期にこそ、それに忠実に従うことである。