キャッチボールを楽しむ

 話し終えた後に聴衆が静まり返っているのは、修道院の説教でもない限り、うれしい反応ではない。質問されることは、いいことなのだ。興味をそそる話だという証拠だ。人々があなたの話に関心を持ち、話の内容について積極的に考えているのだ。

 質疑応答を、聴衆が前向きに参加しているという報酬の会話として考えれば、脳の防御反応がやわらぎ、最善の状態で対応しやすくなる。そこで次の2つのアプローチを試してみよう。

・話し終えた途端に、誰かが手を挙げたり、何か言い始めたりしたら、心の中で喜ぶ。「いいぞ、関心を持ってくれたんだ!」

・答える際は、まず質問に感謝する。「いい質問に感謝します」「ありがとうございます、それは重要な論点ですね」

 この2つ目のアプローチは、あなたに返事を考える時間を与え、質問者は自分が尊重されたと感じる。私は最近、ポッドキャストの番組の収録中にホストから質問されたが、すぐには答えられなかった。そこで、いい質問ですねと言ってから、話を続けた。

 収録後、彼にこんなふうに言われた。「いい質問だとほめられて、思わず嬉しくなりました。あなたが考える時間を稼いでいたことは、わかっていたのですが」

共感を向ける

 聴衆が質問するのは、あなたの揚げ足を取ろうというのではなく、あなたの考えが自分の働き方に与えるかもしれない実際的な影響を理解したいからだ。自分の仕事量や優先順位がどのように変わるのか、成功する可能性が高まるのだろうか。

 そこで、プレゼンの準備をする際は、必ず聴衆の目線で内容を確認する。あなたなら、聞き終わってからどのような質問をするだろうか。質疑応答で留意したい3つのポイントがある。

●質問者にとって不都合な点は何か?

質問者があなたの話を聞いて実践しようとしたときに、最大の障害は何か。簡潔に答えることが難しい質問でも、相手の懸念に理解を示す。

●質問者がいま、抱えている問題は何か?

質問者は、新しい戦略計画を導入している最中かもしれない。外部のステークホルダーと関係を築くのに苦労しているかもしれない。あなたのプレゼンの題材が、より広い問題とどのように結びつく可能性があるか、前もって考えておく。

●次はどうすればいいか?

 私たちは本能的に、状況が変わる可能性について確実なことを知りたいと思う。あなたが未来を占えるわけではないが、プレゼンで説明した「続き」について、何かしら言うことはできるだろう。

 聴衆の視点に立つことによって、相手は人間であって敵の戦闘員ではないと思い出し、落ち着きやすくなる。あなたの考えで変化を起こせるかもしれない。

 数年前、私のチームはある非営利団体の新しい戦略立案を手伝った。団体の理事会との打ち合わせを前に、私たちはプレゼンに使う図表を囲んで、理事一人ひとりの反応を考えていた。そのとき、従来の優先課題をリセットすることを、団体のCEOはことさら悲しむかもしれないと思い当たった。

 前もってCEOの思いを想像していたおかげで、打ち合わせではCEOからの質問にもあまり動揺せずに、彼のこれまでの成功をもとに新しい提案をしたいという点を強調することができた。そして、理事会全体が新しい提案を積極的に支持してくれた。

まず同意する

 あなたに同意できないから、質問する人もいるだろう。これは特に繊細な状況だ。意見の不一致は、あっという間に脳が防御的になって、闘争・逃走反応を招きかねない。

 あなたも質問者も明快かつ建設的に考えるために、答える際は、まずあなたが相手に同意できる点に絞る。これによって、心理学でいう「内集団」が生まれやすくなる。共通点のある同じチームだという意識が広がり、互いに尊重して、脅威の感覚が薄れるだろう。

 たとえば次のようなステップで緊張をやわらげることができる(ゲーム理論の専門家アナトール・ラパポートの研究を参考にした)。

・あなたが相手の意見をどのように理解したか、簡単に説明する。「私の理解が正しければ、あなたは……という考えですね」

・あなたが同意できる点を挙げる。「この点は、私たちの意見はかなり一致しています。私たちは2人とも……」

・相違点に注目する。「1つ意見が違うのは……」

・あなたの見解を説明する。「私がこのように考える理由は……」

 あるIT企業のシニアマネジャーは、新製品の発売に関して挑戦的なスケジュールを提案したところ、同僚に反対された。そこで彼女は、このアプローチを実践した。

「私の理解が正しければ、あなたは、あと3ヵ月で発売というのは現実的ではないと思っているのですね。絶対に確実な製品を市場に出したい、それは私たちみんなが思っています。時間的に厳しいことも承知しています。それでも私があなたより楽観的で、このスケジュールで行けると思うのは、私たちはプロジェクトの人員を2倍にする段取りができているからです。あとでもう少し詳しく話しましょう」

 同僚の意見の一部を認め、同意していると伝えることによって、万事うまくいくと説得した場合より、彼女の意見が深く受け入れられた。同僚は自分の意見が却下されたというよりも、耳を傾けてもらえたと感じのた。

好奇心で矛先を変える

 時には完全に不意をつかれる質問もあり、経験豊富な人でさえ戸惑うだろう。質問者がおもしろがっていたり、博識ぶりを披露したり(「これはイタドリの問題と似ていませんか?」)、あるいは、自分の個人的な状況を具体的に訴えようとする場合も少なくない(「16ページの、先月の停電に関するデータについて、今後はどうなりますか? 私たちにとっては死活問題です」)。

 予想できない質問は、答えを用意することもできない。しかし、ある心構えが役に立つだろう──好奇心だ。学習は、脳に本能的な報酬を与える。したがって、あなたから質問するだけでも、あなたの防御反応がやわらぐ。たとえば、こんなふうに質問する。

・「なぜその質問をしたいと思ったのか、もう少し話してもらえませんか?」

・「それはおもしろいですね。あなた自身が経験したことですか?」

・「その点が気になるのは、何か特別な理由がありますか?」

 この戦略がうまくいかなければ、最初のステップに戻り、視野を広げる質問に感謝する。「その点はよくわからないのですが、ありがとうございます。調べてお返事します」。いつイタドリの質問をされてもいいように、準備しておくことなんて不可能なのだから。


HBR.org原文:How to Nail the Q&A After Your Presentation, January 24, 2020.


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