ビジネスカルチャーというと相変わらず、ユニコーン(企業価値10億ドル以上と評価されるスタートアップ)による戦略的破壊、デジタルトランスフォーメーション、そして彗星のような台頭(と破滅的な転落)といった話ばかりが聞かされる。でも、少しばかり立ち止まって、もう少し小さく考えて、より謙虚に行動して、人と人の交流をもっと意義深い関係に発展させることを考えてみてはどうだろう。

 たしかに偉大な企業やリーダーは、普通とは異なる考え方をする。その一方で、彼らは顧客や同僚のことを誰よりもよく考えている。また、手抜きをしたり、価値観を譲歩したりすることが簡単にできるとき、どう行動すべきかを誰よりもよく考えている。テクノロジーが世界をつくり変えている(しばしば歪めている)時代に、人々は、もっとディープで、もっと人間性が感じられる経験に、これまでになく飢えているのではないか。

 このような考え方をするリーダーの一人が、災害復旧を請け負うベルフォア・ホールディングス(BELFOR Holdings)のシェルドン・イエレンCEOだ。ベルフォアはイエレンがCEOに就任して以来、売上高が年間500万ドルから15億ドル超にまで成長した。

 同社のスタッフは、洪水や竜巻、火事などによる被害の通報があると、大急ぎで活動を開始する。それはきつくて、汚くて、危険な仕事だ。

 イエレンは感謝の気持ちを伝えるために、スタッフ全員に手書きの誕生日カードを送ることにしている。これだけで、ざっと9200枚。さらに、記念日のカード、感謝のカード、それに「お疲れさま」メッセージなども合わせると、計1万2000万枚のカードを毎年書いている計算になる。出張のときは(私とは違ってプライベートジェットだが)、大量のカードと封筒(宛先はすでに書かれている)、それに青いボールペンを持ち込み、1回のフライトで約150枚のカードを書き上げる。

 エグゼクティブ・シャインとマーシャが愛と思いやりを強調し、料金を客に決めさせる方針と同じように、イエレンのカードを書くことへのこだわりも、どこかクレイジーで、わざとらしく感じられるかもしれない。だがイエレンは、ベルフォアの業務にはスタッフの強いコミットメントが求められるのであり、それを維持するためには、人間的なつながりが不可欠だと主張する。「リーダーが人間の要素を忘れると、会社の成長やスタッフの成功を抑えることになる」

 最近『ワシントン・ポスト』紙のインタビューで、筆跡を真似る自動署名ロボットを使うつもりはないのかと聞かれたときも、イエレンは、自分でカードを書く習慣を「辞めるつもりはまったくない」と断言した。「これは、思いやりと家族のような感覚、そしてリスペクトの文化をつくる助けになる」と彼は言っている。

 その思いはけっして、一方通行ではない。イエレンは60歳になったとき、ベルフォアのスタッフから8000通以上の誕生日カードを受け取った。みなCEOが守っている伝統に、感謝の気持ちを示したかったのだ。

 署名であれ、言葉であれ、ボディランゲージであれ、手書きのカードであれ、小さなジェスチャーを示すことは、自分がどういう人間で、何を大切にしていて、どういう信念を持っているかについて、大きなサインを送ることができる。

 デジタルディスラプションと創造的破壊の時代であっても(いや、こういう時代だからこそ)、心を込めた輝きや、ていねいなカードのパワーを過小評価してはいけない。テクノロジーがあなたの人間性を圧倒することを、許してはいけないのだ。


HBR.org原文:Great Leaders Understand Why Small Gestures Matter, January 13, 2020.


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