●自制心は感情的な経験を抑制するおそれがある

 自制心の強い人が誘惑に抵抗できる理由の一つは、衝動に駆られるような欲望を体験することが少ないからである。しかし、これはそうした人が強い感情を抱くことが少ないともとらえられる。つまり、置かれた状況に対して、より中立的な反応をすることが多いのだ。たとえば、強い自制心のせいで、昇進や昇給、素晴らしい業績評価といったキャリアにおけるポジティブな結果を心から喜べずにいるおそれがある。

 ●自制心は長期的には後悔につながることもある

 自分の人生を振り返ったとき、自制しすぎたあまり(たとえば遊びよりも仕事を選んだことで)、人生を楽しまなかったことを後悔する人は少なくない。このような後悔は、後から振り返ることでしかわからないものである。たとえば、トップに上り詰めるためにいろいろなことを犠牲にして成功を手に入れたCEOは、年齢を重ねて人生全体を振り返ったとき、多くの楽しみを逃してしまったと感じるかもしれない。

 ●自制心は仕事量の増加につながるおそれがある

 自制心の強い人は頼られることが多く、それが重荷になっているおそれがある。たとえば、自制の効く人は同僚の代わりに仕事や責務を果たしてほしいという求めに応じて、過度に負担を増やしてしまう。どんな頼み事でも確実に応えてくれると周囲も知っているのだ。

 ●自制心が悪い目的で使われるおそれもある

 自制の効く人たちは、一見すると、どんなことでもうまくこなせる。「どんなこと」の中には、反社会的なことも含まれる。自制の効く人は概して、自制心のない人たちよりも違法行為や反社会的な行動(たとえば無謀な運転をしたり人をだましたりすること)をするおそれが低いものの、いったんそうした行為に手を染めると、捕まる可能性は低い

 自制心の強い人は、組織内で価値の高い働き手だと考えられていることが多い。だが皮肉なことに、捕まったり罰せられたりせずに倫理に反した行為を成功させる可能性も高い。さらに、自制心の強い人たちは社会規範に従うのが得意であるがゆえに、自身に害を及ぼす行為さえ受け入れる傾向がある(たとえば、実績を上げるために違法薬物を使用する、など)。

 ●自制心がすべての人を幸せにするわけではない

 自制心を駆使しすぎると疎外感を覚える人もいる。本当の自分を押し殺さなくてはいけないと感じるからだ。論理よりも感覚を頼りに意思決定する人に、この傾向は強い。

 そういう人たちは、自制心を要する決断を下したとしても満足できない。たとえば、ふだん感覚をもとに決断する人は、自制心をうまく働かせて難しい仕事を成功裏に成し遂げて昇進したとしても、自分自身に満足できないかもしれない。彼らは、家族や友人とともに時間を過ごすといった他にすべきこと、やりたいことを犠牲にして仕事に注力した自分が自分ではないように感じるのだろう。

 ●自制心がバイアスにつながるおそれもある

 専門家ではない人や政策担当者は、複雑な社会問題(過食や浪費、喫煙、アルコールや薬物の乱用、犯罪行為など)を、主に自制心の問題だと見なす傾向が強い。しかし、自制心ばかりを重視すると、そうした問題に社会的、経済的、政治的な要因が関わっていることが見えにくくなる。

 たとえば、肥満の蔓延は自制心だけの問題だと見なされることが多い。だが、この問題の根底には、加工食品の価格が低いことや1食分の分量が増えていること、仕事や遊びの場で座っている時間が長い傾向にあることなどが関わっている。

 自制心のみに焦点を当てることは「ピューリタン的バイアス」とも呼ばれており、悪い行為の全責任はそれを行った人物にあると考え、より広い社会的要因を顧みないイデオロギーの表れである。そのため、社会的に大きな問題のはずが、単なる自己管理の問題に変質してしまう。職場であれば、非現実的な締め切りに間に合わなかった部下を上司が責めるようなときに、同様のバイアスが認められるだろう。

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 自制心は目標達成を助ける重要な手段である。ただし、自制心を幸福や成功の唯一の決定要因として扱うのではなく、各自が置かれた広い状況の中で、よりホリスティックに自制心を捉える必要がある。

 自制心を働かせることに加えて、自分の弱みや限界を受け入れることも重要である。心理学者はこれを「セルフ・コンパッション」と呼ぶ。セルフ・コンパッションが怠慢や放棄につながることはない。その反対に、自分のことをよく知り、より現実的なゴールを設定して自分自身を向上させるのに役立つのだ。

 したがって、自分に常に厳しく、常に限界を押し広げようとする代わりに、時には自分に優しくなることが、自分らしくゴールを達成できるよりよい方法となるだろう。


HBR.org原文:The Dark Side of Self-Control, January 16, 2020.


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