エコノミック・ステイトクラフトから、企業をどう守るか

 巻頭論文「企業が政治に翻弄される時代」は、重要かつタイムリーな論文です。英語原文は最新のHBR1-2月号に掲載され、特急で翻訳・編集しました。筆者のジョージ・ワシントン大学教授 ヘンリー・ファレル氏らは、米国の外交問題評議会(CFR)が発行する外交・国際政治専門誌の日本語版『フォーリン・アフェアーズ・リポート』でも関連論文を発表しています。

 国家間で争いが起きた時、官民の経済活動を一種の武器にして、相手国の行動を変更させる施策が、最近活発化していることに警鐘を鳴らす論文です。最近メディアで目にするようになってきた、いわゆる「エコノミック・ステイトクラフト」(ES)について警告するものです。巻き込まれると、企業は多大な損害を被るので、実態を知り、危機感をもって、防衛策を取ることが急務です。ESは、外交交渉と武力行使の間にある活動と言えます。

 以下の本稿は、この巻頭論文の背景を、ESに詳しい多摩大学大学院教授の國分俊史氏と、『決定版 リブラ:世界を震撼させるデジタル通貨革命』(東洋経済新報社)の著者で野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏への取材をもとにまとめます。

 論文では、米国のES事例として、中国企業ファーウェイやZTEとの取引規制、国際決済を支えるSWIFT(国際銀行間通信協会)からの経済制裁対象国の締め出しなどが示されています。こうした活動は昔からありましたが、米国と中国の覇権争いを背景に、今日のESは質的に変化しています。

 急速な技術革新により軍事面・産業面で競争優位が短期間に逆転、技術力が企業や大学に遍在する自由主義陣営では国家管理が困難、企業を買収すれば技術や人材の奪取が可能などの点で、追い上げる中国には有利な環境です。ハイテク製品に組み込まれた部品やソフトウェアによるデータ漏洩や、インテリジェンス(諜報機関)と連携した株価操作を仕掛けた上でのハイテク企業の買収など、方法が巧妙になっていることも現代版ESの特徴です。

 中国は金融面では、ESへの対策を進めています。SWIFTからの締め出しによるESへの備えとなる、中国独自のCIPS(国際銀行間決済システム)を2015年に開設し、世界の金融機関を呼び込んでいます。

 さらに、世界初の中央銀行によるデジタル通貨を人民元で発行する準備を進めています。いずれも、ネットインフラやブロックチェーンなどの技術革新があればこその施策です。中国が広げる「一帯一路」経済圏の強化と相まって、信用力が高まれば、人民元は国際決済通貨として認知されていきます。そうなれば、現状のような、米国による経済制裁の効果を減じることができます。

 一方、米国は、国防権限法や輸出管理規則などの規制を強化。国家経済会議(NEC)が中心になって安全保障政策を拡充し、各省庁や情報当局を通じて実効性を高め、産業界に対してはインテリジェンスとの緊密な連携を促しています。同盟国に対する規制も厳格化しています。米財務省は1月13日に発表した、安全保障の観点から対米投資を規制する対米外国投資委員会(CFIUS)の届け出制における免除国リストから日本を外しています。日本の安全保障体制に懸念を持っていると思われます。

 日本政府は昨年、国家安全保障局に経済安全保障政策を担う部署「経済班」の新設を決めました。経済班の役割として前述の國分氏は、(1)インテリジェンス強化、(2)リスクシナリオ分析、(3)モニタリング評価、(4)日本がとり得るES発動シナリオの検討、の4点が重要だと指摘し、「こうした機能を早急に政府が備えなければ、米中のESの応酬に巻き込まれ続け、日本企業の競争力は低下、日本の安全保障環境の悪化も招きかねない」と警告します。

 ちなみに、こうした争い方を考える上で参考になる翻訳書『超限戦』(喬良著、 王湘穂著)が今年に入って、19年ぶりに復刻されています。

 今月号の巻頭論文では、日本が韓国との政治的争いを原因として、半導体の生産に欠かせない化学物質3種の同国への輸出を制限したことも事例として挙げています。一方で、外国からのサイバー攻撃は、三菱電機やNECの事例などを見ても近年深刻化しており、日本企業のリスクマネジメントの強化は急務です(編集長・大坪 亮)。