(1)優れたプレゼンターは、使うスライドの枚数が少なく、言葉数も少ない

 マッキンゼー・アンド・カンパニーは世界有数のコンサルティング企業の一つであり、私もこの分野で同社と何度も一緒に仕事をしてきた。マッキンゼーのシニアパートナーたちが、「最近のビジネススクール卒は、入社してすぐに顧客に認められようと、いかに知識があるかを示そうとします。その手始めとして、膨大な量のパワーポイント資料をつくる」と話してくれたことがある。

 そんな新人コンサルタントも、少ないことはよいことだとすぐに学習する。ベテランのシニアパートナーが新人に、スライド数20枚を2枚にまで減らすよう指示を出すのだ。

 優れた書き手や話し手は、優れた編集者でもある。歴史上最も記憶に残るスピーチや文書が、最も短い部類に属するのは偶然ではない。リンカーンのゲティスバーグ演説は272語だったし、ジョン F. ケネディの就任演説は15分だった。そして米国独立宣言は、22もの権利ではなく、わずか3つの不可侵の権利(生命、自由、幸福の追求)を保証しているだけである。

 重要ポイント:「不要なものは可能な限り削る」

(2)優れたプレゼンターは、箇条書きを使わない

 論点を理解してもらううえで、箇条書きは最も非効率的な方法である。最も傑出したプレゼンターの一人だと見なされている、スティーブ・ジョブズを例に挙げよう。彼は、文章や箇条書きのみのスライドを、めったに使わなかった。その代わりに、写真と文章を組み合わせたスライドを用いていた。

 記憶とコミュニケーションに関する実験で、写真や画像で伝達される情報のほうが、言葉だけの情報よりも記憶に残りやすいことがわかっている。

 科学者たちはこれを「画像優位性効果」と呼ぶ。分子生物学者のジョン・メディナによると、画像を記憶する能力は人間の最大の強みの一つだという。彼は次のように述べている。「写真や絵を記憶する人間の能力は驚異的である。耳から入った情報は3日後には10%しか覚えていないが、そこに写真や絵を加えると、3日後でも65%は記憶に残っているのだ

 重要ポイント:「写真や動画、画像を加えて、スライドの文章を完成させる」

(3)優れたプレゼンターは、声を使い分けて情報伝達力を増幅させる。

 ペンシルバニア大学ウォートン・スクールのマーケティング教授、ジョーナー・バーガーの最新の研究によると、話すペースや声の高さ、大きさを変える話し手のほうが、聞き手の印象に強く残るという。

 つまりこの研究によれば、説得力のある人は、声の調子を変えることでみずからの主張に自信があるように見せているという。たとえば、カギとなるメッセージを強調する際には声のトーンを上げ、重要なポイントを口にした後に間を入れる。

 重要なメッセージを伝える際に声の大きさやトーンを上げたり下げたりすると、プレゼンの伝達力は強まり、説得力や威厳が増すというわけだ。

 重要ポイント:「聴衆に好意的な印象を与える上で、声の力をみくびってはいけない」

(4)優れたプレゼンターは「驚き」の瞬間をつくる

 聴衆は、発表されたスライドの1枚1枚や言葉の一つひとつを覚えていない。彼らは、瞬間を思い出すのである。語り草となっている、2009年のビル・ゲイツによるTEDトークがその好例だ。

 ビル&メリンダ・ゲイツ財団によるマラリアの蔓延を抑えるための活動を発表する際に、ゲイツは次のように述べた。「ご存じの通り、マラリアは蚊を媒介に感染します。ここに、何匹か持ってきました。皆さんに体験していただくためです」。そして、彼は舞台の中央に歩いていき、マラリアに感染していない蚊が入った小さな瓶のふたを開けた。

「会場で蚊を少しだけ自由にさせましょう」

 この瞬間で、ゲイツは聴衆の心を見事にとらえた。そこに驚きがあったからである。聴衆は一般的なパワーポイントによる発表を予想していた。グラフやデータをたくさん見せられるのだろう、と。ところが聴衆は、いきなりテーマを体感し、感情を揺さぶられる体験をしたのである。

 想定外の瞬間が聴衆の心をとらえるのは、人間の脳が飽きっぽいからでもある。私が以前インタビューした脳科学者のA.K. プラディープは、次のように述べる。「目新しいものに対する認知は、あらゆる人間が生存するために備えている能力であり、遺伝子に組み込まれているものです。私たちの脳は、輝くものや新しいもの、目立つもの、おいしそうに見えるものを探すようにつくられているのです」

 重要ポイント:「聴衆に何か特別なプレゼントをする」

(5)優れたプレゼンターは練習する

 ほとんどのプレゼンターが、必要とされる量の練習をしていない。発表前にスライドを見直すくらいはするだろうが、素晴らしい発表をするために何時間も練習したりはしていない。

 マルコム・グラッドウェルは、一流になるための基準として「1万時間の法則」を提唱した。これを簡潔に説明すると、1週間に20時間の練習を10年続ければ、誰もがその分野で一流になれるという法則だ。次のプレゼンまでにそこまでの時間を注ぐのは難しいとしても、世界の偉大なプレゼンターは、よいものをさらによくするために時間をかけていることは間違いない。

 たとえば、マーティン・ルーサー・キング・ジュニアを見てみよう。彼の最も有名なスピーチは、何年もの練習の賜物である。やがて彼の技術に気づきと柔軟性が備わり、達人のレベルになった。即興性にも富んでいた。キングは、演説の記憶に残る部分を即興で話したのである。リンカーン記念堂の階段で行った「ドリーム・スピーチ」として現在知られる、あの演説のことだ。

 彼が「私には夢がある」と語り始めると、その場にいた記者たちは困惑した。事前に手渡されていた公式原稿に、そんな言い回しは含まれていなかったからである。キングは聴衆の雰囲気を読み取り、以前の演説で使った言葉とアイデアを即興で付け加えたのだった。

 キングは生涯で2500回もの演説をしたと言われている。もし1回の演説につき原稿作成と練習に2時間を割いていたと仮定するなら(多くの場合、彼はそれ以上の時間をかけていた)、少なく見積もっても5000時間の練習をしていたことになる。これは演説に費やした時間だけであって、高校での討論や数百回もの説法は勘定に入れていない。1963年8月までに、キングの練習時間は優に1万時間に達していた。

 重要ポイント:「素晴らしいプレゼンには時間をかける」

 素晴らしいコミュニケーションが持つ力を見くびってはならない。この力は、夢のある仕事を獲得し、自分の考えを支援する投資家たちを引きつけ、組織内で自分の評価を高めるために役立つ。

 世界には優れたプレゼンターが大勢いるが、今回の重要ポイントをもとに技術を磨くことが、一段上へと上がる一歩となる。そうすれば、いつでも素晴らしい発表ができる、卓越した人物になれるだろう。


HBR.org原文:What It Takes to Give a Great Presentation, January 06, 2020.


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