●破壊的イノベーションの脅威

 優れた企業に異変が生じる理由に関する、中核的理論である。『イノベーションのジレンマ』は、「なぜ問題なのか」という論点を掘り下げた大局観を示す論文であり、「利益率をめぐる、一見したところまっとうな懸念が、悲惨な結果をもたらしかねない」と既存企業に警鐘を鳴らしている。ディスクドライブ業界、アップルとディジタル・イクイップメント・コーポレーションほか、いくつかの古典的な事例を概観して、大企業が留意すべき状況を描き出している。

 ●組織構造

「『イノベーションのジレンマ』への挑戦』は、ディスラプションの封じ込めにつながるイノベーションを実現するための組織づくりを説く。ディジタル・エクイップメント・コーポレーションをみずからのフレームワークで分析して、一度は栄華を誇った同社が転落していった有名な事例を解説している。

 ●製品イノベーション

「セグメンテーションという悪弊」もまた、優れた経営者がイノベーションでなかなか成果を上げられない理由を掘り下げた論文だが、組織構造やマネジメント体制ではなく、製品イノベーションそのものに焦点を当てている。企業は、顧客が製品に求める役割(「片付けるべき用事」)を理解することにより、顧客から真に評価される製品、サービス、ブランド全体を開発することができる。クリステンセン教授は、「ミルクシェイク」の例を引いて、製品開発者が自分達の任務をどう捉えるべきかを説いている。

 ●財務分析の弊害

 既存の財務インセンティブがアダとなり、イノベーションは往々にして、企業にとって魅力的な選択肢ではなくなってしまう。「財務分析がイノベーションを殺す」では、DCF法、NPV、EPSのような目標達成の指標を、固定費や埋没(サンク)コストに対する考え方と併せて、批判の対象にしている。そのうえで、「将来価値を考慮に入れた他の投資評価手法を取り入れるべきだ」とリーダー層に向けて提言している。

 ●ビジネスモデルのイノベーション

 製品イノベーションは必要かもしれないが、それが真にディスラプティブであるためには、多くの場合、新しいビジネスモデルのもとで市場に投入する必要がある。「ビジネスモデル・イノベーションの原則」では、アップルのiTunesやCVSのミニットクリニックなどの例を引きながら、新しいビジネスモデルが必要かどうか、成功するビジネスモデルの条件は何かを見極める方法を紹介している。

 ●M&Aにおけるビジネスモデルの役割

 企業はビジネスモデルを革新しようとしてM&Aを決断する場合がある。ところがM&Aの失敗率は70~90%にも上る。「真実のM&A戦略」は、失敗は往々にして、M&Aを追求する理由が明確でないことが原因であると説く。ビジネスモデルの革新を真に求めているのか、それとも既存のビジネスモデルを補強したいだけなのかを、企業は省察する必要がある。目的しだいで、適正価格の支払いから、従業員などのリソースの扱いにいたるまで、M&Aの遂行方法は大きく異なってくるはずだ。

 ●業界の将来の成長源はどこにあるか

 もしディスラプションが予見可能であるなら、一歩引いて市場全体を俯瞰することにより、ディスラプションが時の経過とともに、どう業界を変容させるかを理解できるはずである。「シフトする収益源を先読みする」は、次なる収益源を見極め、その新領域で他社に出し抜かれずにすむための助けとして、市場や産業の進化形態を説明する。

 ●拡張可能な中核能力

 自社事業への具体的脅威がどれほど大きいかは、どうすれば知ることができるだろう。「破壊的イノベーションの時代を生き抜く」は、自社をディスラプトしかねない他企業のビジネスモデルの強さと自社の相対的な優位性を見極めて、破壊者(ディスラプター)に負けないための条件を突き止める助けになる。この論文ではジョブ理論に依拠して、「拡張可能な中核能力」という概念を取り入れている。拡張可能な中核能力は、ディスラプターのビジネスモデルの一部であり、アップマーケットを目指して他社の事業領域を浸食しながら、相手の力を削ぎ続けることを可能とする。

 ●破壊的イノベーション、ふたたび

「破壊的イノベーション」と称される概念は、登場から20年の間に、ビジネス思想において重要な位置を占めるようになった。ところが、誤解と誤用のせいで有用性を失う危機に瀕している。「破壊的イノベーション理論:発展の軌跡」は、重要なコンセプトに立ち返り、用語を正確に使うことの重要性を示すとともに、20年に及ぶ実地への適用を通して得た知見を披露している。

 ●優れたマネジメント理論の条件

 ビジネス理論を科学的手法で検証してリアリティ・チェックを行うと、その理論が将来予測に真に役立つのかどうかが判断できる。「よい経営理論、悪い経営理論」は、理論の信憑性をより厳格に検証して、具体的な状況にふさわしいかどうかを経営者やマネジャーが判断しやすいようにすべきだと説く。

 ●個人の戦略

 クリステンセン教授は個人にまで考察の対象を広げ、人生戦略が欠けていると、素晴らしい人であっても、時として不幸に見舞われると述べる。「プロフェッショナル人生論」では、仕事とプライベートにうまく対処して末永く満足のいく人生を送れるよう、ビジネス関連のコンセプトを引き合いに出しながら読者を励ましている。

「事業全体を預かるマネジャーは例外なく、将来の成長に向けて礎を築く役割を担う」というのが、教授の持論である。この目的を果たすためには、破壊的イノベーションと、それがもたらす脅威を理解するとともに、たゆみなく進化を続けるテクノロジー、産業、顧客に取り残されないように、チームや組織を率いて成長を生み出す方法を知る必要がある。

本稿はThe Clayton M. Christensen Reader(Harvard Business Review Press, 2016)の抄録である。


HBR.org原文:The Essential Clayton Christensen Articles, January 24, 2020.