社員を悪循環から解き放つ3つの方法

 ●社会的シグナルの影響力を認識する

 私たちが職場で見る同僚たちは、当然のことながら、いつも仕事中だ。そのため、夜中にテキストメッセージやメールが届くと、相手がそれまで中断なく働き続けていたと無意識に思い込む。実際には、犬を散歩に連れていったり、家族と食事したりしていたかもしれない。しかし、そうした仕事以外の活動は目に見えない(仕事以外の活動について同僚や上司に知らせたがらない人も多い。いつも仕事をしている忙しい人というイメージを周囲に与えたいからだ)。

「その結果、私たちはしばしば思い違いをする」と、ダーリングは言う。上司や同僚が実際より長時間仕事をしていると思い込む。すると、自分も長時間仕事をしなくてはならないという発想になる。自分だけ後れを取るわけにはいかないと感じるからだ。

「規範の誤解」に関する古典的研究によると、同じような現象は至る所で見られる。その悪影響は大きい。全米規模の研究によれば、大学生のかなりの割合は、ほかの学生たちの飲酒量が実際より多いと思い込んでいた。しかも、ほかの学生たちの飲酒量をどのくらいだと思っているかという点は、学生の飲酒量と最も密接に結びついていた要素だった。

「みんないつも働いている」という誤解を修正するために、アイデアズ42のプロジェクトでは、私生活上の活動を可視化しようとしている。そのために、マネジャーたちには、もっと私生活上の活動をオープンにするよう求めている。昼食休憩を取る、定時に退勤する、勤務時間を柔軟に決める、休暇を取得する、仕事以外の生活や育児・介護について語るといったことだ。

 同様の行動を取るよう、部下に促すことも期待する。職場のチームで共有しているスケジュール表に、私生活上のイベントを書き込むことも有効かもしれない。

 このほかには、注意喚起のためのメッセージを自動的に届ける仕組みも導入した。1年のはじめにメッセージを送り、一人ひとりが年間のスケジュールに休暇を組み込むよう促しているのだ。

 メールやテキストメッセージ、電話に関するルールをつくり、業務時間外の連絡を減らす、あるいはなくすことも試みている。リーダーの行動はチームのメンバーの考え方に影響を及ぼすので、リーダーがそのような時間に連絡することを禁止した。また、人々の行動を記録して透明化し、ほかの人たちをお手本に行動するよう促すことで、好ましい行動を取る責任を持たせ、新しいシステムが根づきやすくするのも有効な方法だろう。

 ●重要な仕事のために予備時間を確保する

 人は、物事をやり遂げるために要する時間と労力を、正確に予測できない場合が多い。「計画の誤謬」と呼ばれる現象だ。「忙しさのパラドックス」は、必要な時間と労力を軽く見積もり、課題を過剰に抱え込む傾向にいっそう拍車をかける。

 私たちのプロジェクトでは、この問題への対策として、毎週のスケジュールに予備時間を組み込むよう促している。緊急事態が持ち上がったり、想定以上に作業に時間がかかったりして進行が遅れた場合に、対応できるようにすることが目的だ。

 アイデアズ42は、病院の手術室の運用に関する研究を基に、この方法を考案した。その病院では、手術室をすべて埋めるのではなく、緊急事態に備えて常に1部屋を空けておくようにしていた。それにより、この病院は手術件数と収益を増やし、過剰労働も減らすことができた。

 ほかには、長期休暇前後に「移行期間」を設けるというアイデアもある。休暇前の移行期間に期待されるのは仕事を締めくくることだけ、休暇後の移行期間に期待されるのは不在中の状況を把握することだけだ。これにより、休暇中は仕事を完全に忘れてリフレッシュできるし、休暇後はペースを取り戻しやすくなる。休暇中にメールをチェックしなくてはならないと感じたり、休暇後に待っている大量の受信メールのことを考えて脅えたりせずに済む。

「私たちは自分で思っているよりも多くの予備時間を必要としている」と、ダーリングは言う。「予備時間を確保することは、質の高い仕事をするうえで、きわめて重要だ」

 予備時間を確保しようと思うためには、ものの考え方を根本的に転換しなくてはならない。どんなに注意深く計画を立てても、非常事態や想定外の要求はかならず持ち上がる。だから、プロジェクトや課題の遂行には、ほぼ常に予定以上の時間がかかると思っておく必要がある。

 予備時間を設けることは、サボることとは違う。その時間は、最も重要な仕事を成功させ、仕事が私生活を侵食するのを防ぐために必要な時間なのだ。

 ●一人ひとりの仕事量を透明化する

 私たちのプロジェクトの参加者は、同僚とのやり取りや会議やメールに追われて、生産性を高められていないという不満を感じている人が多かった。大きなプロジェクトに集中する時間を確保できないのだ。計画を立てたり、物事を深く考えたり、戦略を立てたりする時間はもっとない。邪魔されずに仕事に取り組むために、有給休暇を使っていると述べた人たちもいた。

 そこで、私たちのプロジェクトでは、その週の優先課題に取り組む時間をあらかじめ確保し、一人ひとりの仕事量が上司や同僚にわかるようにしている。仕事を「目に見える」ようにすることが狙いだ。そうやって透明性を高めれば、誰かが会議の開催を主張するたびに好ましい摩擦が生じると期待したのだ。

 優先的に取り組むべき課題が明確になると、会議を開くことにもコストが伴うという認識が浸透する。会議に出席すれば、メンバーはその時間にほかの活動ができないからだ。そこで、その会議は本当にみんなの時間の有効な使い道なのかと考えるようになる。

 ほかには、会議の健全性を高めることも試みている。議題を明確にする、終了時間を決める、具体的な行動計画の策定を義務づけるなどすれば、会議の効率を高められるかもしれない。また、仕事に集中できるように、会議をいっさい行わない日、メールのやり取りを禁止する日を設けてもよいだろう。

 以上のような対策は、人々の発想の転換を促すことを目的にしている。仕事で成果を上げつつ、もっと健全なワーク・ライフ・バランスを実現することが可能なのだとわかれば、超多忙で休みなく働いていることを自慢するような人を称賛しなくなるかもしれない。

 そして、職場の人たちが最も重要な仕事を完了できず、燃え尽きの一歩手前まで追い込まれていて、私生活の時間をほとんど取れなければ、組織のどの点を改めるべきなのかと考え始めるだろう。


HBR.org原文:Preventing Busyness from Becoming Burnout, April 15, 2019.


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