ワーク・ライフ・コンフリクト

 この発見は、時間をかけた研究の産物だ。私たちのプロジェクトの最初の段階では、アイデアズ42の研究者が、米国の3つの非営利団体を約1年にわたり調査した。具体的には、それぞれの職場を数回訪問し、職員やマネジャー、リーダーの聞き取り調査や観察を行った。仕事のスタイル、仕事に関する組織文化、職場環境を明らかにし、ワーク・ライフ・コンフリクトを生む要因を突き止めたいと考えたのだ。現在は、ほかの5つの非営利団体を選び、そのうちの3団体と協力して、行動科学的な対策により摩擦を和らげられるかを検証している。

 職場調査では、現実と理想の大きな分断がしばしば浮き彫りになった。

 大半の人は、ワーク・ライフ・バランスが組織の中核的価値観だと答えた。つまり、仕事で成果を上げると同時に、充実した私生活を送り、健康的に生きるための時間を確保することも重んじていたのだ。ところが、実際にはどの組織も、それをなかなか実践できずにいた。その点では、アイデアズ42や、私が所長を務める非営利プログラム「ベター・ライフ・ラボ」も例外ではない。

 ほとんどの職場では、1日中、メールがやり取りされている。仕事は、夜間や週末にも、そして休暇先や病院の待合室、家族のお祝いの場にも侵食してくる。そのせいで、燃え尽き状態に陥っている人も少なくない。

 それなのに、多くの人は、膨大な量の仕事を抱えて超多忙な日々を送っていることが自慢らしい。ある団体の職員たちは誰も週45時間以上働くべきでないと言っていたが、その団体の平均労働時間は週52時間を超えていた。

 こうした状況は、使命感が大きな原動力になっている非営利団体で、とりわけ深刻だ。この種の組織で働く人は、自分が重要な仕事をしていて、報酬や健康やワーク・ライフ・バランスよりも仕事を優先すべきだと考えることが多い。最近の研究によれば、非営利団体で働く人の半分が燃え尽き状態だったり、その寸前だったりするという。

 一部の職員は私たちの職場調査に対して、ワーク・ライフ・バランスの重要性を理解していると言いつつも、仕事が好きなので疲労困憊するまで働いてしまうと打ち明けた。「重要な仕事をしていると思っているため、仕事を切り上げるのが難しい面がある」と、ある人は語った。「もし私たちみんなが仕事を嫌っていたら、もっと簡単にワーク・ライフ・バランスを実現できただろう」

 その点は、一般職員だけでなく、リーダーたちも大差ない。リーダーたちはたいてい、自分自身のことはともかく、職員のワーク・ライフ・バランスを改善したいと願っている。しかし、実際にはそのバランスを崩す行動に走りがちだ。夜間や週末にテキストメッセージやメールを送ったり、ほとんど休暇を取らなかったりする人が多い。

 自分の行動(=過剰労働)が自分の主張(=ワーク・ライフ・バランス)と矛盾しているという自覚すらないリーダーもいる。もちろん、言行不一致に気づいている人もいる。「私はワーク・ライフ・バランスのお手本として、お粗末と言うほかない」と、あるリーダーは述べた。

 本当に職場のワーク・ライフ・バランスを充実させたいなら、夜間にメールを使わないよう指示するだけでは不十分だ。私たちが調査した職場で働いていた人たちはみな、どのような行動が好ましいか理解していたが、それでも、それを実践できずにいたのである。したがって、「忙しさのパラドックス」にはまり込んだ組織文化を改めるための行動科学的対策が必要になる。