AI時代に人間のマネジャーに求められる役割とは。個々人はそのためにどのような準備をしておくべきか。そして生き残る組織にはどのような要件が必要となってくるか。クレイトン・クリステンセン教授の愛弟子であり、戦略とイノベーションを専門とするハワード・ユー氏(IMD教授)に聞いた。

AI時代こそ、知的体力が求められる

 AIが得意なのは、狭い領域におけるインテリジェンスです。たとえば、目標が明確に記され、前もって条件も定義され、ルールに関して完全な情報が提供されている状態であり、それゆえに、個人ローンの審査や画像認識、チェスや碁などのゲームを得意としています。

ハワード・ユー(Howard Yu)
スイス・ローザンヌに拠点を置くIMD教授。同スクールのエグゼクティブ向けコース、AMP(Advanced Management Program)ディレクター。2011年にハーバード・ビジネス・スクールにて博士号を取得。専門は戦略とイノベーション。洞察に富むケーススタディーには定評がある。主な著書に『LEAP ディスラプションを味方につける絶対王者の5原則』(プレジデント社)がある。

 昨年、ハイテク業界で有名な、スタンフォード大学とUCバークレーのトップリサーチャーとAIの限界について議論をしたのですが、アーティフィシャル"ゼネラル"インテリジェンス、つまり全般的知能としてのAIは実はまだ、あまり進化していないとのことでした。

 これこそ、人間が今後どのような優位性を持ち続けていけるかの指針となると思います。

 いわゆる特化型人工知能を筆頭に、AIが狭い領域の知性にしか利かないという根本的な課題を見たとき、人間に対する理解とコミュニケーション、社会のネットワーキング、あるいは、小さなデータから意味を形成するセンスメイキングなど、人間のマネジャーに求められる役割は、さまざまな領域を越えて知識を統合していくこととなるでしょう。

 たとえば、ソーシャルワーカーのように、ビッグデータの分析結果がいかなるものであれ、きちんと対象となる家族の様子を見ながらホームレスにならないように食い止めていく、といったような仕事。AIはそうした落とし穴に陥る可能性が高い人を見極めることはできますが、さまざまな情報を統合し、どのような介入をすれば最も効果的なのかを、共感力感情的知性(EI)を活かして行うのは人間にしかできません。人間に求められる仕事の中身が変わっていくことになります。

 銀行業界でも、1960年代にATMが導入された頃は、窓口担当者(テラー)が仕事を失うと考えられていました。しかし過去数十年に渡り、雇用は減っていません。変わったのは仕事の中身で、単なるお金の受け渡しではなく、ファイナンシャルアドバイザーとして保険を売ったり、複雑な不平不満に対応したり、洗練された顧客サービスを提供したりするようになりました。

 過去30年の製造業における大きなイノベーションはTQMですが、今ならセンサーや機械学習で特定の要素を進化させることはできるでしょう。ただ製造ラインの近くに立ち、さまざまな現象を見ながら仮説を立てていくことは、AIにはできません。反復やルーティンの仕事をAIに任せることで、人間はより高付加価値な仕事に集中できるようになります。

 また、職人技の性質を持つものもオートメーション化していきます。ユニリーバがマーケティングキャンペーンを行う場合、60年前であれば数人のマネジャーが会議室に集まって意思決定をしていました。インスタグラムなどSNSからユーザーのインプットが入ってくると、たとえばパッケージについての意思決定をユーザーに委ねられるようになります。意思決定の世界が職人技からマスプロダクション(大量生産)にシフトし、今後AIや機械学習によって、それすらもオートメーション化していくことになります。それでもなお、エスノグラフィやアンソロポロジー的なアプローチのように、スモールデータから包括的に考え、センスメイキングしていく部分は、人間の仕事であり続けると思います。

 つまり、AIによって人間が仕事を奪われるというよりも、人間の仕事の内容がより豊かになるということです。今後はAIにできることはAIに任せ、人間のポテンシャルをフルに解き放っていく企業、人間の創造性を最大に活用できるような企業こそが、競合に対して大きな優位性を築いていくことになるでしょう。