デトロイトに本社を置くクイッケン・ローンズは、快進撃を続ける金融サービス企業である。デジタル・テクノロジーの力を借りて業界を激しく揺さぶり、いまでは米国で最も貸出金額の多い住宅ローン会社に成長した。

 この会社の企業文化には、揺るがすことの許されない絶対的なルールが一つある。それは、顧客の電話やメールには、その日のうちに返事するというものだ。退勤直前に電話やメールがあった場合も、例外扱いは許されない。「私たちはこの方針を断固堅持している」と、創業者のダン・ギルバートはあるとき、新入社員研修(私はこれに同席していた)で説明した。「この件に関しては、私たちは過激派と言っても過言でない」

 この日、ギルバートは何百人もの研修会出席者全員に、自分に直接つながる内線電話番号を知らせ、こう述べた。「もしあなたが忙しくて返事ができないときは、私に言ってください。私が代わりに返事します」

 どうして、このルールにこれほど固執するのか。市場でクイッケン・ローンズに強みをもたらしている要素の一つは、「切迫感がなければ、(市場での競争という)ゲームに参加できない」という考え方だ。顧客への返事に関するルールは、社員にそうした切迫感をありありと感じさせる手立てになっているのだ。このルールは、ギルバート版の「カフリン・タイム」なのである。

 昔、私はクレニアムの興味深い世界をじっくり調査したことがある。クレニアムは、シアトルに本社を置くボードゲーム会社。新鮮味の乏しかった家庭用娯楽グッズ業界を活性化させ、過去数十年を象徴するゲームのいくつかを送り出した会社だ。同社ではどこに顔を出しても――プロダクト・デザイナーやIT専門家や最高財務責任者(CFO)など、誰と一緒にいても――誰もが一様に同じ問いを発していた。ある製品やプロセス、会議が「CHIFF」かどうか、という問いだ。

 CHIFFとは、賢明で(Clever)、質が高く(High quality)、革新的で(Innovative)、フレンドリー(Friendly)で、楽しい(Fun)という意味だ。開発・販売するゲームに始まり、採用のプロセスや会議、さらにはオフィス設計に至るまで、あらゆる側面にCHIFFの精神を注ぎ込むべきだとされていた。

 重要なのは、これが単なる抽象的な理念にとどまらなかったことだ。「CHIFF推進者」という正式な肩書を持つ常勤の上級幹部がいて、社内のあらゆる慣習やプロセスを検討し、すべてがCHIFFの基準を満たすようにしていた。また、社員は、この基準を満たしていないと思えば、社内どんなことにでも疑問を呈したり、異論を唱えたりすることが認められていた。「これはCHIFFっぽくないね」とか、「もっとCHIFFにできないかな」といった会話が交わされていた。

 正直なところ、私は同社への訪問を終えたとき、戸惑いを感じていた。部外者である私には、CHIFFがそこまで絶対視されている理由が理解できなかった。どうして、同社の人たちは日々、その精神を実践しているのか。しかし、のちに米国屈指の有力大学であるテキサスA&M大学の文化を知ると、私がCHIFFに違和感を抱いたことは、むしろショッキングなルールが強烈なパワーを持っていることの証なのだとわかってきた。

 ショッキングなルールと言っても、テキサスA&M大学の学生たちは、一部の民間企業のようなルールに従っているわけではない。それでも、この大学にはいくつもの個性的な慣習が定着している。ハリー・ポッターと仲間たちが通ったホグワーツ魔法魔術学校にも負けていないくらいだ。

 ささやかな例を一つ紹介しよう。大学の上級生と卒業生は、「Whoop!」という叫び声を会話によく織り交ぜる。大学の応援歌や勇ましい掛け声の類いは、この叫び声で締めくくられることが多い。しかし、現役学生は3年生になるまで、この言葉を発することが許されない。そのルールに違反した学生は、非常に厳しい目で見られる。

 テキサスA&M大学(愛称「アジー」)の文化は、私の趣味とは異なる。しかし、この大学の7万人近い学生のほとんどは、そのような文化がない学生生活を想像もできない。同大学の学生や卒業生は何十年もの間、自校の独特な文化についてこう述べてきた。「外から見れば理解できない。内から外に対しては説明ができない」

 この言葉は、ジャンルを問わず、組織で文化が持つパワーをうまく言いあらわしている。市場で個性的なものを生み出したければ、その前に職場で個性的なものを生み出し、個性的な文化を築く必要があるのだ。

 また、この言葉は、強力な文化を築くうえでショッキングなルールが果たせる役割の大きさも浮き彫りにしている。部外者が理解できないことを社内で行っていれば、正しい行動を取っていると考えてよいのかもしれない。


HBR.org原文:To Build a Strong Culture, Create Rules That Are Unique to Your Company, December 03, 2019.

ウィリアム・テイラー(William C. Taylor)
『ファストカンパニー』誌の共同創刊者。最新刊は『オンリーワン差別化戦略』。ホームページはこちら


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