習慣的な考え方の弊害

 本書の冒頭に、マイケル・ルイスの『マネー・ボール』が紹介される。メジャーリーグにあって資金力がなく、弱小球団だったオークランド・アスレチックスのゼネラルマネジャーが、統計データの使い手を活用して、当時の通説を打ち破り、強豪チームを作り上げていく様子を描いた書籍であり、映画である。

「ノーアウトで単打によりランナーが出たら、次の打者はバントして、ランナーを二塁に送れば、得点に結びつく」というのが当時の「正説」だったが、確率論から、次代者はバントではなく、打たせた方が良いと考え、実践したところ、勝率が上がったのである。

 この話を基に、「いつもこうしてきたから」という習慣的な考え方で人が行動する状態になると、人はロジックに疑問を投げかけるのを怠りがちになる、という弊害を示して、本書のスタンスを説明するのである。この事例の使い方が、本書のスタイルを象徴している、と言える。

 経営コンサルタントが著す書籍は往々にして、抽象的な専門用語が多くなり、容易に頭に入ってこないものになりがちだが、本書は違う。著者らの経験(失敗談を含む)を随所に織り込み、平易な言葉で、とてもわかりやすい。図表もシンプルで、的確である。そして、何よりも優れているのが、十数点に及ぶイラストである。その章での主張を表現するストーリー付きとなっていて、合点がいくのである。

 本書は、ジェフ・タフ氏とスティーブン・ゴールドバッシュ氏の共著。タフ氏はデロイトコンサルティングのプリンシパルで、ゴールドバッシュ氏はモニターデロイトのプリンシパルで、同社の最高戦略責任者。モニター デロイトは、世界最大のプロフェッショナルファームのデロイト トゥシュ トーマツ リミテッドが、マイケル・ポーター教授らハーバード・ビジネス・スクールの教授陣によって設立されたモニター グループを2013年に買収して、現在の形で活動している。