プラットフォームのパワー

――インドに注目されたきっかけは何ですか。

 これまた面白い出会いで、日本が関係しています。『ソフトウエア企業の競争戦略』を書きながら、同時に日本企業のケーススタディを書いていて、それがMITの図書館に保管されていました。1988年、MITの卒業生のインド人、ナレンドラ・パトニさんが、私が書いた日立のソフトウエア工場についてのケーススタディを手に持って、オフィスにやってきたのです。

 そして、言いました。「僕はこれをインドでやる」と。彼が創業した会社パトニは大きく成長し、ニューヨーク証券取引所で上場、私もパトニの取締役を務めていました。彼は「インドのソフトウエアの父」と呼ばれています。

――歴史を振り返って、「もしあの時日本がこうしていたら、世界のリーダーであり続けていたのに」という時点はあるでしょうか。

 私はそういう考えはせず、未来を見るタイプです。もちろん日本について心配な点はありますが、同時に、日本はきっと、どうすれば前に進めるかを見極めるだろう、と思っています。なぜなら、日本には持ち続けている強みがあるから。そしてその強みによって、日本はまた世界のリーダーに、昔とは違う形のリーダーとなると思います。

 強みとしては、まず、東京はものすごい都市です。とても居心地がよく、清潔で、ほぼ誰もが仕事を持っている。日本は安定性のモデルだと思います。

 政治が保守的といったことも言えますが、米国の混乱、英国の混乱を見てください。中国の仕組みだって羨ましいものではない。もちろん、中国には何億人もが貧困から抜け出すという目覚ましい進展がありますが、日本はそれを100年前にやっているのです。

 少子化、高齢化など、長期的には心配な点もありますが、これも日本はちゃんと対応できると確信しています。高齢者や女性の活躍、ロボットの活用など、すでに日本は対応を始めています。

 問題があるとすれば、日本にはたくさんのイノベーションがあって、特許もあるのに、企業がこれらをビジネスにつなぎきれていない、ということです。

 また、新しい企業が新たな産業を作り出すくらい成長しているということも、あまり見られない。米国は、製造業を失いましたが、新しい金融産業、バイオテック産業、ソフトウエア産業を創り出している。今、日本企業はソフトウエアでもバイオでも、世界のリーダーではありません。

 日本は昔、松下電器(現パナソニック)、ソニー、ホンダなど、世界レベルの企業を創り出していました。しかし今日、そうした企業は日本から生まれていない。この点は心配です。

 原因は大学にある、と考えています。すでに時代は「モノがつながる」時代になっているのに、日本の大学は「モノづくり」を超えられていない。ソフトウエアや情報学の大学の先生のほとんどは、大企業でモノを作ってきた60代の教授だったりしますから。

 今後50年先を見たら、大学を変えなければいけない。変えるべきは、階層的で60代の男性が支配している大学の構造です。MITでは、いくら若かろうと最もよいアイデアを持つ人が昇進します。また、若手教員の教育の負担が一番少なく、研究に没頭できるようになっています。日本では完全に逆で、若手ほど仕事が多いですよね。「講座制」も変える必要があります。学生も、受験でバーンアウトして、大学で必死に学ぶことができなくなっていますね。

 多くの利益と価値を生み出す新しい企業が出てくれば、生産性もあがり、社会も豊かになる。だから、社会にとってイノベーションやアントレプレナーシップが大切なのです。

――2019年5月出版の最新のご著書についてお聞かせください。

 タイトルはThe Business of Platforms: Strategy in the Age of Digital Competition, Innovation and Powerで、2002年の『プラットフォーム・リーダーシップ』の続編とも言える本です。

 最初に私がプラットフォームについて考えたきっかけは、VHSがベータに勝ったという事実でした。製品としてはベータのほうがよかったけれど、VHSはプラットフォームとして優れていた。DOSもそうです。DOSはひどいOSでしたが安価で多くのアプリケーションができ、当時のマッキントッシュに勝ちました。

 こうした例を見ているうちに、単なる製品とプラットフォームの違いに気が付いたのです。プラットフォームも製品ですが、ネットワーク効果によって牽引されます。他の企業がそれを使うと、より多くのユーザーが使い、企業も多くの補完的製品を作り、その製品自体の価値が上がっていく。

 2002年の時にはまだわかっていないことがありました。その後起きたのは、ネットワーク効果をもとに事業を創る企業が爆発的に増え、彼らは「マルチサイドプラットフォーム」を活用している、ということです。

 こうしたプラットフォームには2種類あります。2つ以上のグループをつなげること自体で価値を生み出している「取引」のプラットフォームと、2つ以上のグループをつなげて「イノベーション」を生み出すプラットフォームです。例えば、前者はアマゾンマーケットプレイス、後者はウィンドウズ、アンドロイドなど。ウィンドウズはPCユーザーとPCのアプリケーション開発を行う会社を結び付け、新たな機能を生み出すプラットフォームです。

 中には取引とイノベーションの両方のプラットフォームを持っている会社もあり、こうした「ハイブリッド」企業の価値が今一番大きくなっています。アマゾンの売り上げの6割は、オンライン商店から来ており、これは単なる「取引」プラットフォームです。しかしアマゾンはレコメンデーション、ユーザーの分析に基づくメッセージなど、技術を使ってネットワーク効果を引き上げるということをやっており、これが売り上げの4割です。

 創業当初のアマゾンは、単なる本のオンラインストアでした。それが1999年にアマゾンマーケットプレイスという取引プラットフォームを始め、さらに10年前データやプロセッシングの余剰能力を売るクラウドサービスのアマゾンウェブサービス(AWS)を始めました。キンドルやアマゾンエコーといったプラットフォームも持っています。つまりアマゾンは、多層化したプラットフォーム企業なのです。

 アップルも同じく「ハイブリッド」プラットフォーム企業です。これまでこうした企業について書いた本はありましたが、いったいこうした企業が何なのか、どう事業を回しているのかについて、網羅的な描写を行った本はなかった。そこで、私たちはこうした企業の財務を過去20年さかのぼるデータベースを作り、こうした企業が他の企業よりパフォーマンスが高いことを証明しました。売り上げは同分野の企業と同じぐらいなのですが、社員の数は約半分で事業を回しています。

――まさにプラットフォームの集大成、という本なのですね。

 プラットフォームについては半分で、後の半分は「パワー」についてです。2002年には予測できなかったのが、「勝者総取り」効果です。ネットワーク効果によって、最後は1つか2つのプラットフォームが生き残る。グーグルは検索において、中国とロシアを除くと98%のシェアをとり、フェイスブックはソーシャルメディアの7割をとっている。

 こうした企業は主にソフトウエアエンジニアが創設しており、企業が持つ社会的、政治的インパクトのことは考えなかったのです。今では、2016年の米国大統領選でロシアがフェイスブックを操作したことでトランプが大統領になったこともわかっています。

 こうしたプラットフォームのパワーについての法律も規制もない。個人情報についての規制はありますが、パワーについては何もないのです。独占禁止法は国の市場、金額のシェアが対象なので、いくら検索の7割がグーグルでも、その法律は適応されません。

 アマゾンは米国のオンライン小売では4割ですが、小売り全体のシェアは4%なので独占禁止法とは関係ない、と言います。フェイスブックは「我々はテクノロジー企業であって、メディアではない」と宣言し、メディアを規制する法律の対象外だと主張している。エアビーアンドビーもホテルではない、ウーバーもタクシー会社ではないと言い、規制を逃れようとしています。

 一国に匹敵するほどの力を持つこうした企業をどうするのかが、社会に問われていると思います。

――日本におけるプラットフォーム企業をどう見ていらっしゃいますか。

 プラットフォームへの興味はすごくあると感じますが、プラットフォーム企業はそれほど多くありません。プラットフォーム企業のデータベースに入れた日本企業はソニーだけです。ただし、ソニーもプレイステーションはプラットフォームですが、会社単位で見たらプラットフォームではなく製品の企業です。

 NTTドコモも以前はプラットフォームでしたが、スマホのプラットフォームに置き換えられてしまいました。楽天はプラットフォーム企業と言っていいかもしれませんね。

 日本の企業トップは、「プラットフォームを自前で作れるか、少なくともプラットフォームの考え方を取り入れることで自社の役に立つことはないか」と問う必要があると思います。